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滑り止めは適材適所??商業施設の防滑コンサルティング事例

滑り止めは適材適所の選択を!!

通路、階段、スロープ、または商業施設、浴場施設、プール施設等、床材は敷設される場所と用途により形状、素材、色合い等が決定されます。

そして、設計により検討された床材が其々の箇所に敷設されます。基本的にはこのご時世ですから、床材も施設内外の滑り対策を配慮されたものが多いように感じます。

床の摩擦係数値としては高数値が出そうな床が目立ちますが、それでも滑り出すのが、常に環境により変化していく床の宿命ではないかと私は思っています。

滑りを発生させるファクターはさまざまです。場所や履物等を含め特定できません。また、滑りを抑制させる方法も多々ありますので、私なりに適当だと思う場所ごとの滑り抑制方法を少し記してみたいと思います。

商業施設の滑り止め方法

まずは商業施設から話を進めましょうか。

大きな敷地の中で幾つもの大型店舗が併設されて、まさに一つの町をイメージさせる商業施設が数多く点在しています。私の家から20分ほど車を走らせると既に4箇所もあり、其のうち2箇所から滑り対策の相談を受けました。

残念ながらまだ滑り止めの施工は検討中となっていますが、その時に私が施設にアドバイスした内容の一部を記したいと思います。

滑ってトラブルが発生した相談事例

お客様が滑ってトラブルが発生して・・・某商業施設から電話がありました。緊急を要するので何をさておき出動です。当日は朝から小雨がパラついていました。

1時間程度で現地に到着。さっそく現場の検証に入ります。お客様が滑って転倒した場所は、1階の店舗から店舗への通路でした。敷設されているタイルはPタイルです。この商業施設はオープンして2年目の近代的な建物を擁しています。

この時代に、この建物にPタイル?その時の私の正直な思いです・・・。この件は滑り対策とコストの複雑な絡みが、設計意図に反映されることですから近々、具体的に私の考えを記したいと思っています。

さて困ったのが私です。本来、私の専門分野は無機質系床材の滑り止めですからね。とりあえず1階全てのフロアーを見て回る事にしました。

そして雨がかりの場所を中心に、幾つかの提案を試みました。

提案内容

  • 階段部分とその先3メートルまでを長尺シートに張替えること
  • 10分の1の傾斜も長尺シートにすること
  • 店舗間の移動通路にはエポキシライニング(ウレタン、エポキシウレタンを含む)を敷設すること(滑り止めに最適なレベルとして骨材を最大5パーセントにするよう提案したが理解してもらえずガッカリしましたが・・・)。
  • 店舗出入り口も長尺シートかエポキシライニングにすること
  • 長尺シートの柄、色合い等は建物のコンセプトに合わせ選択すること。
  • 風除室にはマットを設置

等々提案してみました。

Pタイルを敷設している施設に対する滑り止めの対策は、他にテープシール等も策としては有効な場合もありますが、いずれにしても施設の判断により決定される件ですので、当施設への提案はここまでにして検討していただくことにしました。

もう1箇所の施設への提案は次回に紹介します。

大規模商業施設からの滑り止め相談事例

さらに大規模な商業施設から相談を受け、提案した内容を記したいと思います。

商業施設もここまで大きくなると施設そのものが一つの町(タウン)と言えますね。駅に隣接し雨の影響を受けずに施設へ行けるし、公園、遊園地を備え、1,000台以上も収容可能な駐車場もあります。

そして、何もかもがファショナブルで多くのお客様で賑わっています。・・・私はどっちか言うと昔の市場、商店街的な方が好きですが・・・。

滑りの苦情、怪我が発生

今回の相談というのは、2〜3ヶ月の間に5人のお客様から苦情があり、2人が施設の通路で滑って怪我をされたこと、3人が施設内で滑って捻挫したと言った内容でした。

ただ、苦情に対し施設側は納得していない様子が伺えます。この商業施設はオープンして5年目を迎えるが、これまで滑りに関しトラブルの報告は一度もなかったとのこと。

なんで急に滑りのトラブルが、これほど多く発生したのか。しかも施設内のトラブル3件に多少の疑問すら感じているようでした。そこで前回と同じ様に施設の床の滑りの調査をすることにしました。

知らなかっただけ???

まずはトラブルとなった施設内の調査から開始しました。風除室から売り場の床は、すべてベージュ色のセラミックタイルが敷設されています。風除室には大きなマットが設置され、雨傘用のビニール袋も完備されています。

出来る限りの雨水の持込を阻止するべく対策は施されているように思います。この段階で、私の経験則を基にウンチクを言っても、疑問を抱えている施設が納得するはずもありませんので、当日の施設内の調査は打ち切りとし後日、雨の日に再調査をさせていただく事にしました。

トラブルの発生した現場を調査をする場合は、できるだけトラブル発生時と同じ環境下(条件)で行うのが重要となります。

降ってほしい時に降らないのが雨・・・2週間後、待望の雨がしかも強烈に降っています。さっそく現場調査隊の出動となります。この日は2名で施設の内と外に分かれて午前10時から正午まで、お客様の動向を観察することにしました。

水滴の一つが、滑りを発生させる

施設内の観察結果を記しますと、雨傘をさして来店されるお客様が8割強で、その他のお客様は駆け込んで店内へ入られていました。この施設の駐車場の構成は、施設に隣接した立体駐車場と施設の前に100台程度の駐車スペースが設置されています。

傘をささずに駆け込んでくるお客様は、施設前の駐車場からが殆どでした。駆け込みでのお客様は、施設の風除室のマットの上を歩き店内の売り場へ向かいます。

1時間もするとマットの先のタイルに水滴が多く見えてきました。トラブル発生現場は、マット敷設の位置から30メートルほど先の売り場だと聞いていたので、時間を見計らって現場に向かう事にしました。

30メートル歩いて気が付いたんですが、その間の何箇所かに水滴がありました。店員さんも気が付いていない様子です。実はこの水滴の一つが、お客様の履物と動向の変化により滑りを発生させるのです。

床がPタイルであれセラミックタイルであれ関係ありません。店内でのトラブルの原因が見えてきました。もう少し時間をかけて水滴の要因を探索する必要があります。

施設内をくまなく調査

引き続き、店内の床の状況を見て回ることにしました。

売り場の中央部付近に来ると水滴らしきものは見当たりません。次に2階の立体駐車場からの出入り口の調査に向かいました。雨にうたれずに店内に入れますが、床は1階の出入り口と同じ様に濡れていて1階以上に汚れが目立ちます。おそらく車の持ち込んだ雨水が原因でしょうね。

1階の周辺部に敷設されているのは磁器タイルですが、立体駐車場の床はモルタルです。以前ブログで記した事もありますが、吸水性が高く、駐車場内に滞留した排気ガスを含んだ汚れを5年間吸い続けて黒ずんでいます。店内が汚れているのはこれにあります。

1階より滑りやすい。トラブルが無かったのが不思議なくらい。感覚的にそう思いながら店内の調査を終え、店外の調査担当と合流する事にしました。

店外の調査担当者の報告を記します。1階周辺部(通路を含む)の床は薄茶色のテラコッタ風の磁器タイルが敷設され、広場周辺部内側(階段を含む)にはベージュ色の砂岩タイプの磁器タイルと、外側には茶色のインターロッキングが敷設され、明るい垢抜けした設計となっています。

敷設されている床材の摩擦係数値は、それなりに高い数値を示すもので構成されています。安全を配慮しての事だと考察されます。

ただ残念なのは摩擦と滑りの関連性の認識が欠如している点です。環境の変化、人の動作、履物によって常に変化するのが滑りなんです。・・・とりあえず基本的な調査を終え、施設担当者のもとへ伺うことにしました。

滑り止め改善策の提案

施設担当者に調査結果を報告し、改善策として提案した内容を記してみます。

まず1・2階店内の通路に点在する水滴の件と、2階の立体駐車場出入り口付近の濡れた床と汚れの件について話をしました。雨天時、店内に水滴が点在すること、水滴が原因でお客様が滑るかもしれないことを施設担当者は承知していました。

その対策として、出入り口付近の売り場の店員に床が濡れている時は、タオルで拭き取るように指示しているとのことでした。問題点はここにあります。

指示しただけでチェックもせず、対策が完了したと思い込んでいたんですね。現実に水滴が点在し、店員さんはそれに気が付かずにいます。施設担当者に、この件を話すと

何回も指示してるのに

と少し顔をしかめました。

私が彼に

対策の対策が必要ですね。

と言うと彼は一瞬???状態でしたが、対策の対策とは何か?と聞き返すので、失礼無礼を先にお詫びして提案とともに話すことにしました。(内政干渉にならない様、気を配りながら・・・・。)

PDCAの話

施設担当者が意味は詳しくは理解していないが、聞いた事はあると言ってくれたので抵抗なく話す事ができました。PDCAとは通常、品質管理を遂行するうえで用いられる手法で、Pはplan(計画)do(行動)Cはcheck(チェック)Aはaction(更に大きな行動?)といった考え方で遂行していきます。

要は言いっぱなしでは駄目、指示した事を確実にやってもらい、チェックをし、もっとうまく事が運ぶように対策検討を重ね、そのうえで改めて行動する。また、この手法を繰り返すことが、より良い結果を生み出すことになるという内容です。

つまり、この施設においては、滑り対策のチェックが口頭のみで実質的に実行されていなかったと言えます。ここら辺で施設担当者の滑りトラブルへの不信感が無くなったように感じました。幅(心)の大きな人です。ホント。(^-^;・・・・・

ここからようやく提案に進むことができました。

緊急性の高い滑り止め提案

不信感のなくなった施設担当者に提案開始です。広い商業施設なので、滑りの発生を予測できる箇所は広範囲に及びますが、まずは緊急を要する箇所にポイントを絞って提案しました。

1・2階の出入り口の風除室について

風除室と同じサイズのマットを店内側にもう1枚敷設すること。願わくば弊社の滑り止めを、風除室から10m×10m以上ご採用いただくくよう提案。

施設周辺部の磁器タイルについて

1階正面に位置する部分、約500㎡については弊社の滑り止めを提案。

1階の施設までの通路(一部の階段部分を含む)について

床全体が同色の磁器タイルで構成されているため、階段部分に対し、滑りとは関係なく踏み外しの危険性が懸念される。段差を視覚で判断できるように、階段の突端にテープシール(当時の私の判断)を貼る事。願わくば弊社の滑り止めも合わせてご採用頂くよう提案。(2000㎡程度ありました。)

ありがとう

施設担当者から後日、改めて提案書を提出するよう依頼され、当日の緊急出動も無事終了しました。帰り際に施設担当者が私に言ってくれた一言が嬉しかったですね。

いろいろとありがとう。
実は階段の踏み外しの件については、まったく頭に無かったこと。
ありがとう。

本当に幅の大きい人です。(o^-^o)

滑り止め施工に繋がったかどうかは抜きにしても、自分の使命が何であるのか改めて悟ったような内藤でした。

この記事を書いた人

内藤 憲道

内藤 憲道

多種多様の床材や状態に合わせて滑り止め溶剤を調剤し、美観をまったく損なわずに滑り止め効果をつくる防滑のエキスパート。溶剤系滑り止めでは、業界の第一人者。全国で活躍する防滑業者の多くは、内藤の理論がベースになっているとかいないとか。メンテナンス業界では防滑に限らず床材のドクター(研究者)として知られ、大手ゼネコン、タイルメーカーはもちろん、同業者から現場相談を受けるなど、(一部では)圧倒的な信頼を得ている。

  1. 前田さん より:

    「床材は敷設される場所と用途により形状、素材、色合い等が決定される」・・・本当にその通りだと思います。床の滑り止めは奥の深~いものだと最近やっと実感できておる次第です(恥ずかしながら・・・)
    場所毎の滑り抑制方法を心から楽しみにしています。

    ところで、セラミックタイルはメンテナンスフリーを売りにしているようなのですが、とんでもなく汚れが残ってしまっている状況を2,3度目にしました。
    何か間違ってるような気がしてなりません。何か良いアドバイスを頂きたいのです、宜しくお願いします。

    • 内藤 憲道 内藤 憲道 より:

      前田さんへ
      前田さん久しぶりですね。いつもコメント有難うございます。少し長くなりますが書いてみます。セラミックタイルのトラブルは結構多いですよ。トラブルに発展しているポイントは2つあると思います。1つ目はワックスフリーがメンテナンスフリーと勘違いされている事。2つ目はセラミックタイルを敷設した場合と従来通りPタイルでいった場合の費用対効果の比較にあると思います。この世界メンテナンスフリーのもの等基本的にあり得ません。人間と同じです。生まれつき頑健な人、美人?など元々の素材が良い人は、健康を維持する為又は美人顔を製作?する為に時間と金を懸けている人に比べたら、そんなに金がかからんのではないかと思いますがどうでしょうか。セラミックタイルは、まさに前者のイメージなんですね。美人で頑健であっても、日常的にそれなりのメンテナンスは必要です。問題はそのメンテナンスの手法にあると思います。セラミックタイルの吸水性はメーカーによって違いはありますが、0.01~0.06程度です。僅か0.01であっても水を吸い込むと言う事は、必ず汚れも床内に入る事を意味します。殆どのタイル業者が〃拭き取るだけで汚れは取れる〃と言って販売していますが、本当にそうでしょうか?。トラブルに発展しているテーマは汚れで、そしてその汚れが落ちない以上、コンプライアンス違反に発展する可能性だってありります。いい商品を売りお客様に喜んで頂く為には、その商品のメリットのみを強調するんではなく、僅かではあっても必ず発生するデメリット部分も説明すべきであると私は思います。その為にはタイル業者も、もっとセラミックタイルを研究し、タイルと汚れの関連についての知見を深めてほしいと思っています。本当にいいタイルが出てきたもんだと私自身思っています。僅かなデメリットの対策を深く研究することでデメリットに関わる年間のコストも計算出来る筈です。販売時にメンテコストを〃ゼロ〃に近い考え方で説明するからお客様が納得できないんですね。費用対効果の説明は重要な部分です。セラミックタイルが美人薄命にならない事を願うばかりです。前田さん、あと汚れの主成分とか落ちにくい汚れの取り方とか、色々書く事は多くありますが、それは又、機会があればその時にでも書きます。こんなもんでいかがでしょうか。

      • 前田さん より:

        いつも分かりやすいお答えに感激するばかりです。美人を例えにするなど、私などでは思いもつきませんがこの例えは実に分かりやすい。また吸水性に着眼点を置くなど頭が下がると同時に、このような内容を堂々とお客様にお伝えしてあげれば良いのだと痛感しております。

        汚れの主成分とか落ちにくい汚れの取り方も早い機会にお願いしたいものです!よろしくお願い致します!

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