温泉浴場の汚れは複雑怪奇!!
メンテナンス業者からの問合せ(SOS)で最も多いのが、温泉浴場の汚れの問題です。どうしても除去できないと言うのです。そこで私は、まず最初に温泉分析書を入手することを皆さんに指示します。
従来、ほとんどどの業者が無関心であった世界かもしれませんね。入手した温泉分析書を見ながら、私は業者に現場状況について幾つかの質問をします。
- 床材は何か?
- 石かタイルか?
- 日常清掃をどうしているか?
- 床面状態がどうなっているのか?
- 体脂肪で光っていないか?
- スケールで白っぽくなっていないか?
- 使っている洗剤は何か?
- 何人で作業しているか?
- 作業時間は何時間あるのか?
- 使っている道具は?
- 定期清掃はあるのか無いのか?
などなど。当たり前と言っちゃ当たり前の事ですがね。
何で?ちゃんとやってるよ
と、問い返す業者には次の質問を続けます。
- 日常清掃の洗剤はPHどれくらいの使っているのか?
- 汚れの反応性の関係上、最低2種類(アルカリ性、酸性)の洗剤が必要となるが、使い分けできているか?
- 一日の入浴者は平均何人くらいか?
- ポリッシャーの回転数は毎分何回転のものか?
- バフかブラシか?
ここら辺になると業者のトーンが一気にダウンしますが、業者のちゃんとやってるよを否定している訳ではありません。アーそう言うことかにしたいだけなんです。
これから紹介する温泉成分の除去については、さきほど私が質問した其々の???が、あーそう言うことかになって、理解しやすくなると思うからです。
温泉分析書には、陽イオン(+イオン)、陰イオン(-イオン)、遊離成分(非解離成分、溶存ガス成分)の1kg中の各成分、分量及び組成が明記されています。イオン結合が汚れに大きな影響を及ぼすことは言うまでもありません。+イオンの何と-イオンの何がくっつくのかは、其々の分量、組成によって変化するので温泉の現場毎に違います。
それに、定期投入される塩素、入浴者の体脂肪、水垢、カビ等の残留物がブレンドされてでき上がった汚れが多いのは、私も現場でよく見かけます。さらに、そこへ非解離成分の分量が多い温泉となると、そりゃもう大変の世界となります。
白いスケールを有効的に洗浄除去するには?
温泉分析書の遊離成分(非解離成分)が各成分を含めた分量の10%程度までを基準に記してみます。
白いスケールが発生しやすいのは、+のナトリウムイオンと-の塩素イオンが、分析量の大半を含有する温泉に多く見られます。前述したように+イオンと-イオンは、その分量に応じ結合します。それが床面に残留し、水分が蒸散し、それを日々繰り返していくとスケールとなり目につくようになります。
ましてや多量のナトリウムイオンと塩素イオンですから、白っぽく目立ちますよね。基本的な知識がメンテナンス業者にあれば、日常の洗浄作業の中で解決できることで、白っぽく残留することはないと思います。
除去作業としてはこの場合、PH1レベルの酸性溶剤が必要です。有機系、無機系どちらでも結構です。
事前作業
事前作業として必ずやってほしいことは、
- 金属部分、又は直接溶剤が排水溝に流れないようにマスキングをきっちりとすること
- 多少塩素ガス等が発生することを想定し、換気を良くすること
- 素手、裸足での作業は厳禁ですよ
勝手な自信は無能の証です。
使う道具類
次は道具類です。使う溶剤は劇物か劇物に匹敵するものですから、作業がやりやすいように口径の大きい容器に入れて使う方がいいと思います。スケールは溶剤を塗って擦ってを繰り返しながら除去するのが最も有効です。床のスケール除去は立ち作業、立ち上がりに付着しているスケールは座っての作業が主となりますから、それに準じた道具が必要となります。
中和剤
最後に中和剤を準備します。中和剤としては重炭酸ナトリウム(重曹)が最適かと思います。濃度は3~5%程度で十分です。水溶液を作る目安として、バケツに入れた10L程度の水に対し300~500gの重炭酸ナトリウムを溶かしてください。
溶かし方は、先に重炭酸ナトリウムをバケツに入れ、次に少量の水を入れ手で混ぜて馴染ませ、それから残りの分量の水を入れます。そうすると簡単に溶けますよ。
まるで料理番組のおばちゃん?みたいですね。失礼しました。何をやるにしても準備と段取りがその仕事の良し悪しを決定付けます。準備が出来たところで・・・
さあー覚悟を決めて・・・スケール除去作業の開始!!
タイトルを見て、エーそんなに大変なの?と思うでしょうが、正直大変な作業ですよ。スケール除去を請け負った場合、まず私は私自身に言い聞かせます。実践するぞ3つの「き」。
- 換気
- 本気
- 根気
です。
作業手順
今回のテーマで使用するのは塩酸主成分の溶剤とし、この場合の塩酸濃度は20%以下と仮定します。マスキング(養生)の確認を終えたら作業の開始です。溶剤をバケット(ワックスを塗布する際に使用する長方形のバケツを指す)に適量入れます。ポール付きのパットを使ってスケールに塗布し軽く擦ります。スケールの表面がが溶剤にシュワッと反応していきます。何回か擦っているうちに反応が小さくなってきたら、またスポンジに溶剤を付けスケールを同じように何回か擦ります。
スケールの厚みにより時間差はありますが、基本的にはこの単純作業をスケールがなくなるまで、ただひたすら何回も続けます。スケールの厚みが明らかに1ミリ以上あると確認できる場合、床を傷つけないように削ったり、たたいて割ったりして大元のスケールを除去し、残ったスケールを溶剤で溶かして除去します。
立ち上がりに付着しているスケールの場合は、毛バケを使って同じように作業しますが、かがんだり、立ったりの連続ですので、初老で軟弱な私には過酷な労働となります。腰は痛くなるし、酸欠状態にはなるしで、大変ですよ。
従って、この作業をする場合は短時間の休憩を定期的にとる必要があります。溶剤のベーパー(蒸気)の影響で顔がヒリヒリしたら顔を洗いにいき、作業に集中するためにさわやかな外の空気を十分に吸って気分転換をし、水分補給も必要ですしね。
それやったら塩酸のもっと濃いのを使ってやれば早く終わるじゃん。
もっともですが、勝手な自信や判断は無能の証となりますよ。
弊社もスケール除去専用溶剤を製造しているメーカーの端くれです。今回たまたま塩酸濃度20%以下の溶剤と仮定していますが、それなりに調合調整したものなんです。他社で販売している溶剤も基本的には同じようなものです。まず人体への影響を一番に考え、タイル目地への影響をいかに軽減させるか等を考えて製造しているものです。
通常、弊社が原料として使用する塩酸濃度は、35%のものですが、もしもこのレベルの塩酸を作業場に持ち込んだらどうなるか?当然ですが現場はパニック状態になるのは必然です。こんな事をわざわざ書いているのには理由があります。実際にやってる業者もいるんですよ。毒劇物取扱いの資格をお持ちの業者さんは、むしろ嫌がってやりません。知識があるからです。
以前に、某ホテルの支配人から大浴場のスケール除去の依頼があり、デモ施工したことがあります。現場は想像を絶する程のスケールが満載状態でした。支配人立会いのもと1平米完璧に除去するのに1時間かかりました。それなりの見積もりを提出したものの、いっこうに返事がこないので問い合わせてみると、意外な回答が返ってきました。
簡単そうだからウチでやる
なにやら本当にやったみたいです。それから約1年後に飛び込んできた話ですが、あの某ホテルの大浴場大変なことになってるらしい。床は張替えとるし、配管も全部やり代えとるみたいですよ。あーあ。豊中の某ホテルの本当の話ですよ。勝手な自信と判断は無能の証。この語源はここから始まったんです。
スケールが消滅したら中和作業!おっとその前に???
ヘロヘヘロになり、やっとの思いでスケールとの格闘が終わりました。ご苦労様と言いたいところですが、もっと元気出して、あと一踏ん張り、いや二踏ん張り頑張っていきましょう。
通常、中和作業は中和剤を処理した場所にジョウロで散布し、後は多量の水で流すといった作業をやるんですが、私(内藤の流儀)の無手勝流はチョト違います。中和剤として使用する重炭酸ナトリウムは洗剤としても高い能力を持っていますから、中和作業に少し時間をかけてやれば、剥離後の温泉のスケールだけでなく、その他の汚れも併せて洗浄できるはずです(当初、教え子達にすごく嫌がられましたけど)。
内藤流 中和作業の方法
ノウハウの1つですが手法と工程を記してみますね。3~5%の中和剤をパットにつけ床面に擦るように塗布していきます。下地には酸性成分が残留していますから即中和反応をし炭酸ガスが発生します。その炭酸ガスが一部の汚れも同時に浮かせてくれるんですよ。ただし、中和剤を塗布したまま放置していると、せっかく床から剥がれた汚れは床に吸収されてしまうので、次からの作業は追っかけ迅速にやってください。
ポリッシャー洗浄
中和剤の塗布が進んでいったらタイミングを計ってポリッシャーで洗浄です。ポリッシャーがなければデッキブラシです。ポリッシャー洗浄が進んでいったら、タイミングを計って随時、水洗いをしていきます。
この作業は、基本的には滑り止め施工の際の中和作業にも適用します。ただし、滑り止めの作業の場合は、油脂成分が床の内部から浮き出てきますので、水洗いの前に、油脂成分を除去するためアルカリ性洗剤での洗浄を加えます。中和剤もアルカリ性ですから洗い流さず、中和剤の上にアルカリ洗剤を塗布し洗浄していくと言う意味ですよ。
さて、中和作業(洗浄)も終わりました。水切りをして、終わり・・・にしないでください。まだまだやることはあります。
床が乾くのを待って全員でチェックしよう!!
水切りも終わり、本来終了なんでしょうが、チョッと待ってください。床が乾くまで。
床が濡れている間、床はその床材の本来の色合いをだします。いわゆる濡れ色と云われるものです。実際、濡れ色を付けてほしいと依頼される仕事もあります。床の細かい傷を隠す為(目立たなくする)、知識の乏しい、滑り止め類似業者が真っ白にしてしまった床の手直しのために濡れ色をつけたりと、まあー誤魔化しの作業ですがね。
ですから、床が乾かないと今回のスケール除去作業の本当の意味での評価はできないのです。
床が乾きました。全員でチェックします。ほらほら出てきましたよ。濡れている時には見えなかった取り切れなかったスケールが、チラホラと。でも大丈夫ですよ。大元は十分に除去していますから残留しているのは極僅かの量です。手分けして全員でやっつけてしまいましょう。
後は中和剤を作業した箇所に散布し、水で流します。水を切り養生を外し、ようやく作業終了となります。あー疲れた。いや本当に大変な作業です。
タイルを張り替えた方が安く付く???
スケール除去の見積もりを出すと、エー高いナー、と云われるこよは止む得ないとしても、タイルを張り替えた方がマシとか張り替えた方が安いとか、管理会社やゼネコンはよく口にします。
その時私がいつも思うことは、この人達ホンマにマジメに仕事しとんのかいナ。仕事知っとんのかー。現場を知らない能力のない奴が高いとか安いとかいうとんのかいナ。ホンマいいかげんにしいや。等々云いたくなります(過去、2~3回云った経緯があり、十二分に反省しました)。
タイルを新設する時と、張替えの時の作業は大きく異なります。張替えするためには、撤去工事、新たな防水工事等、別なコストが発生するばかりか、店舗においては、休業を強いられる訳ですから、大きな損失が発生します。
ですから、簡単に張り替えた方が云々と言う担当者は、本当に能力を疑うことに・・・。スケール除去は場合によっては、本当に体力と気力を必要とします。見積もりはスケールの点在状況、スケール成分の違いによっても大きく変化します。私が皆さんに言いたいのは、大変な作業にはそれなりの報酬があってしかるべき、と言うことです。頑張ってください。