急勾配の滑りを何とかして!なぜお客様は滑ったのか?
スロープの滑り止めについて
最近、やたらに増えているテーマがスロープの滑り止めです。バリアフリー法上、安全基準のスロープを表現すると12分の1以下の勾配となります。
ところが、問い合わせ先の殆どが、5分の1から10分の1も勾配がある案件ばかりなんです。ひどい話になると5分の2というのもありました。スロープ、日本語に訳すと傾斜ってことになるので間違ってはいませんが・・・。
以前に、滑り止めは適材適所というテーマで概略だけ記しましたが、スロープについて今回は、私の基本的な考え方を記したいと思います。
一般的な風景の中で、マンション等の出入り口に階段とスロープが併設されているのをよく見かけますよね。私共みたいな職種に携わっていると、つい気になり立ち止まっては、ここはセーフ、ここはアウトなんて勝手にジャッジしたり・・・・殆ど病的かも・・・。
スロープを敷設する目的って?
公共施設においては、12分の1のスロープとまではいかないまでも、それなりに対応されているように思えます。ただ残念なのは、なぜスロープを敷設するのか、また敷設したのか、設計の段階でしっかりと認識されていないと思える所があまりにも多いことです。
車椅子への対策と滑り対策を考えた上でのスロープだ。
施設管理者に問うと必ず返ってくる言葉です。本当にそうでしょうかね?
12分の1のスロープでも、楽に昇れない
好奇心旺盛な私は以前に12分の1のスロープを、車椅子で昇ってみたことがあります。比較的元気で健康な私ですが、腕はパンパン、息切れしたのを覚えています。見た目ゆるやかな12分の1のスロープでも、決して楽に昇れる勾配ではないのです。滑りの問題にしても同じことがいえます。
床材の選択は当然ですが、既にもう一歩踏み込んだ対策を検討すべき時代に突入していることも認識してほしいと私的には思っています。
滑り転倒事故が発生し、訴訟ざたになっている現場の滑り止め施工した後、双方の弁護士さんから情報提供を求められることも、しばしあります。私共の言葉の一つ一つが、それなりに影響を与えることが多いので、常に慎重に対応するよう心掛けています。
滑り止めに関わるものとしては、ある意味で責任ある発言を求められます。明らかにこれは?と誰もが判断可能なもの意外は、安易な言動は慎むべきかもしれません。
それは他の分野と違い私を含め、”この人”と云われる研究者がいないことが、すべてを物語っているように思えます。
滑りは数値化が困難
摩擦における研究者は、レオナルド・ダヴィンチの時代から始まり、今日まで高名な方を含め大勢おられます。摩擦においては、静摩擦も動摩擦も重負荷、傾斜、押引する力量、力積、加速力、抑制力等々その起因、要因、その他、その条件のもと正当に数字化される時代となっています。
が、こと滑りに関しては、数字で表現するには無理限界があります。従って、人の歩行に関わる安全基準の数字化設定は、極めて困難なものとなります。
その理由として、スリップ転倒は床材の静摩擦係数値の高低だけで発生するものではなく、床の敷設状況、(スロープを含む)気象条件、周辺部環境、そして、スリップした人の歩行状況、履物、体調に及ぶ所にまで発生条件の対象が広がるからです。そして、その其々の条件一つ一つが滑りに対し、数字化困難なものであるからです。
以上、スロープの滑り止めの依頼を受けた場合の基本的な心構え、考え方について触れてみました。少しでも役に立ってくれればと思っています。
5分の1レベルのスロープの滑り止めを行った過去のはなし
さて、スロープと云ってもいろいろです。13年程前、最初に5分の1レベルのスロープの滑り止めの依頼をいただいた時の事を記してみます。まだ私が駆け出しの頃の話です。
まだ知見の浅い私は、喜び勇んで現場調査へと向かいました。現場で見たスロープは幅2m全長10m程で、約5mところで踊り場が設けてあり、直角に曲がって道路側に約5mと言ったものでした。
見た目は何処にでもあるスロープです。床材は、多少凹凸のある俗に言うクリンカータイルです。水を流してタイルの滑り状況を確認すると、確かによく滑ります。とりあえず自信満々デモ施工施し、お客様に絶賛まで頂戴したうえでの施工決定となりました。
現場では分かりずらい勾配を確認する意味もあり、事務所に戻り、紐を使って高さ1mに5mの長さを直線にして、5分の1の傾斜をつくってみました。
体感は数字以上に情報を認識する
まだ怖さ知らずの私でしたが、さすがに現場でみたスロープとは違うものを感じました。
アレ〜えらい急じゃん
正直驚きました。
好奇心旺盛な私ですから、ついでに高さ2m長さ10mの傾斜をつくってみました。そして怖くなりました。3mと15m、5mと25m・・・高さと長さが増せば増すほど恐怖感が大きくなることを初めて知りました。
防滑施工は無事に終わったが、すっきりとしない・・・
目の錯覚とでもいうんでしょうか。現場の5分の1のスロープに怖さ、危険を感じません。おそらくスロープ途上に設けてある踊り場が、見た目の安全、安心を演出しているんでしょうね。
シュミレーションの段階で5分の1の怖さを知った私ですが、デモ施工において滑りが止まったのも事実です。
取り合えず勢いで施工に臨みました。施工が終わり、お客様に確認してもらい喜んで頂いたうえで現場を後にしたんですが、何かしら気持ちが乗らないまま(不安を抱えたまま)終わってしまいました。
約3ヶ月で「滑り出した」と一報が
約3ヶ月経過し夏に入った頃、お客様から電話が入ってきました。”滑り出した”の一報です。取る物も取り合えず現場へ急行しました。
現場に到着し慎重に滑り止めの効果のチェックを実施しました。結果は、滑り止めの効果に変化なく、まだキッチリと効果を発揮しています。
そこでお客様に”滑り止めは効いてるんですが”と報告したら滅茶苦茶に怒られてしまいました。
おれが滑りかけたから電話したんや!
どうやらお客様ご自身が滑りを感じられたようです・・・。
なぜ滑り止めが効いているのに、滑ったのか?
お客様ご自身が滑りかけたとおっしゃるのですから、何か原因があるはずです。怒られながらでも、お客様の話の中からその原因分析をしなくてはなりません。
数分間の何だかんだのやり取りで、なぜお客様が滑りを感じたのか分かりました。後は、お客様が納得される理論とその実証をしなければ、お客様の怒りを収めることはできません。
そこで私は、お客様に丁重に次のお願いをしました。
誠にお手数をおかけしますが、
滑ると思われた時に履かれていた履物をお持ち頂けませんでしょうか。
お客様は、すぐに”これや”と取ってきてくれました。
それは、かかと部分に少々磨耗がみられるが高級感のある草履でした。底を親指でギュッと押してみると、やはり思ったとおりビーチサンダル程ではないがクッションがあります。
さて、これから滑り止めの現状効果の実証をすることになりますが・・・。
草履での実証作業 - お客様の怒りを収めることができるのか?
さっそくお客様に草履を履いてもらって、滑り止め効果の確認作業に入りました。まずはフラットな箇所に水を撒いて歩いてもらうことにしました。まったく問題なく安全レベルであることが確認できました。
さて、今回のテーマであるスロープの滑りの検証となります。そこで私は、お客様にご理解いただくための手段として、まず上り方向から歩いてもらうようお願いしました。全く滑りを感じません。
今度は下り方向に歩いてもらう事にしました。”アレッ滑らんな”。お客様は何回も何回も歩きながら草履を床に擦りながら首をかしげています。一応滑りの安全性の確認は証明できましたが、重要なポイントはこれから記すところにあります。
お客様がなぜ滑りを感じたのか、なぜ今回の検証で滑りを感じなかったのか、理論上のタネ証をお客様に説明し、そして納得していただかない限り、何度も呼び出される可能性があるからです。
今度は水を流しつつ検証
スロープ最上段からホースで水を流しっ放しにし、お客様の草履の足元に水をかけたうえで、スロープの上から下へ向かって歩いていただくことにしました。するとお客様は、
そうそうこんな感じやねん。こういう時に滑るねん。
やはり思った通りでした。滑りを感じたその日は雨量の多い日で、素足で草履を履いていて、スロープの上から下に歩き、少し歩幅も大きめに歩いた。お客様が滑りを感じた原因が分かりました。
現状のまま安全確認のみで帰ってしまうと、将来スリップ転倒に繋がる危険性があります。従ってここからが最も重要なポイントとなります。ここをクリアしなければお客様の理解を得ることはできません。
摩擦とは何ぞや?滑りとは何ぞや?
スロープ(傾斜)における歩行の踏み込み角度の変化、履物による滑りと摩擦の変化等について、お客様にできるだけ簡単に説明をしました。そしてお客様がある程度理解された頃合を見て、問題である今回の滑りを感じた原因について話をしました。
クッション性のある履物が滑るメカニズム
クッション性のある履物は踵で踏み込んだ場合、体重によって着地した際に、その部分がしぼみます。その時、体重は前方向に移行するので、踵の部分も前方向にしぼみます。その際の僅かな踵のズレが滑りを感じさせることが多いのです。
当日は雨量の多い日であり、お客様の履いていた草履が濡れて、足の裏にまで達していたこと、そしてお客様は急ぎ足でスロープの下りで踏み込んだんですね。
そこで前方向に踵部分が、しぼんだのと同時に直接床に接触しない足の裏も、濡れた草履の上で滑ったんですね。二つの滑りの要因が同時に発生したんですから、滑りを感じたのは当然だと言えます。
床の敷設条件、気象条件により、履物によっては今回みたいに、滑りにくい床であっても、滑ることが多々あります。特にスロープと言う条件下では、お客様ご自身が気をつけて歩いていただくくことが重要な対策となります。
じゃあスロープの滑り止めって無理なんですか?って事になりかねませんので最後に一言。
滑りが止まるか止まらないかと聞かれたら、
間違いなく効果はある
と私は答えることにしています。
いつも感心してます。内藤様のおっしゃるとおり、スロープの傾斜はかなり問題だと
現場で痛感しています。
健全者である我々でもきついこと多々ありますし、法の改定によって仕方なく作った
施設も少なからずだと思います。
「利用者の立場に立つ」ことをいつも考えていたいです。
前田様
お久しぶりです。コメント有難う御座います。今回のテーマで最も苦慮する事は、スロープで滑り止め施工をした場合でも、滑りが止まるか否かを質問される事です。基本的には滑りが止まるという表現は避けたほうがいいでしょうね。表現方法としては、効果はあるが正解ですよ。参考の為に。
はじめまして、こんにちわ新川と申します。
私は関東でメンテナンス関係の仕事をしています。
大阪で滑り止めの仕事をしている友人からここのブログを紹介
していただき、読ませていただきました。
奥が深いですね。関心します。
是非ともお聞きしたいことがありまして、もしよかったらお答えいただきたいと思います。
このお話も、大阪の友人から聞いたのですが『ソグナップ』という滑り止め業者が毒劇物製造者の登録なしで製造、販売していたと新聞に載ってたと言ってたんですが、本当なんですか?
できれば詳しく教えていただきたいのです。
新川さんへ
コメント有難う御座います。
ソグナップ本社が大阪府警から家宅捜査をうけた件ですね。確かに朝日新聞の3月18日に報道されていましたので驚きました。関東では報道されなかったんですかね。
実は、報道される一ヶ月前に、朝日新聞の記者から私に電話がありました。内容は、質量と体積について教えて欲しいと言うものでした。中学生でも知っている様なくだらない質問を何で新聞記者が聞いてくるのか不思議に思いつつ答えてあげましたよ。
どうしたんですか?って尋ねたら、あるメーカーが施工溶剤の分量配分を間違えて販売していて摘発された。そのメーカーが質量と体積を間違えた?と説明しているのでそんな事があり得るのか確認したかったとのことでした。
ついでに記しますが、最近、弊社の類似溶剤が多く出回っています。10年来弊社と付き合いのある業者さんも言います。内藤さん、この4~5年の間に沢山コピーが増えましたね。・・・確かにそうかも。
でもね新川さん、内藤の感覚は全く違うんですよ。弊社の類似はメーカーだけでも数十社、滑り止めに関わる業者さんを入れると少なくとも3,000社程を数えますが、あくまでも類似であり、コピーではないのです。
世の中にもうひとり内藤的アホな男がいない限りコピーは出来ないのです。ルイビトンとかカルチェとか、スーパーコピーと呼ばれるものがありますよね。コンピューターなんかコピーの方がすばらしかったりします。
残念ながら弊社の商品の殆どは半製品なんで当然相手(床材、客のニーズ)によって全て結果が変化してしまいます。溶剤の幾つかを見よう見まねで作る程度では駄目なんですよ。
今、何の疑いも無く類似の業者さんが受け入れられているのは、滑り止めに興味があり、新たに志す業者さん又、滑りで困っているユーザーの皆さんが無垢の環境にあるからなんですよ。
本当の意味で内藤を超えるスーパーコピーがでてきたら、将来もっと明るい業界を皆でつくっていけるんでしょうが・・・本音です。
ご無沙汰しております。
今、ネットサーフィンしておりましたら、たまたま、あなたの防滑情報ブログを見つけましたのでコメントを少し残しておきます。
最後にお会いしてから早5年近くになりますが、現在も相変わらず精力的にご活躍嬉しく思います。それでは、またお会い出来る機会がありましたら。。