WORKS スイミングスクール アイランド香芝

プール底の滑り止め

2度の施工でもプール底の滑りを止められない・・・。人生最悪の結末が新たな道を生んだ

床材:ドイツ製セラミックタイル
難易度:★★★★★★☆☆☆☆
対象場所:プールの底・プールサイド
施工面積:560㎡
工期:3回

平成12年・・・
20年ほど前の事例を取り上げたのには理由があります。

  1. 表面張力では決して滑りを止められないってことを理解してもらうため
  2. 床材はその使用目的、敷設場所によって第三要素、すなわち汚れというウイルスにより常に変化することを理解してもらうため
  3. 当時の私は駆け出しで、ノンスリップマスターの1加盟店でした。本部も私も不勉強であったことを自白するため

ここから私の防滑人生がスタートしました。自分にとって忘れられない現場ですね。

プール底のタイルが滑って歩きにくいとクレームが多発

フィットネスクラブオーナーT氏から、プールの滑りについて相談したい旨の電話をいただきました。
プール8レーンのうち、3レーンを歩行専用として使用しています。そのうち2レーンにジェット水流装置をしていて利用者も多い。一度、現地に来て現場を視察の上、対策を講じてほしいとのことであった。

運動の名を借りた拷問

結構な人が歩いているのにびっくりしましたね。プールで泳いでいる人数は10名程度。歩行用の3レーンに30名程が列をなして歩いていました。この日の水深は1m10cmに設定されています。

歩行運動の風景をしばらく観察していて、施設オーナーのニーズが読み取れました。

こりゃ~運動に名を借りた拷問やな!

私の近くにいたオーナーが私の言葉に反応を、「おもしろい表現だけど、実はこの現状で困っている」とのことでした。

つま先立ちして歩くと、タイルが滑って歩きにくい

現場状況を記すと次のとおり。

歩行者、特に女性ですが、平均身長150cmくらい。水流に向かって懸命に歩いています。懸命に歩く?この表現が一番ふさわしい。女性達は歩くたびに首を振っている。水がバンバン顔に当たって来て鼻に入り、口に入り、目に入りするから、首を振りながら歩くしかないのだ。

オーナーの話として、スイマーもいるので水深はこれ以上下げられないとのこと。そこで解決策として、背の低い人はつま先立ちして歩くことにしたが、つま先立ちして歩くと、タイルが滑って歩きにくいとクレーム多発。

以上の流れの中で、私に白羽の矢を打ってきたのです。

デモ施工ではバッチリだったが、結果はとんでもないことに

現調時にオーナーからプールに敷設している同じタイルを頂戴しました。プールサイド用1種、プール床用2種の計3枚。デモキットを持参していたので、オーナーの前で3枚のタイルに溶剤を塗布し、防滑効果を確認。

バッチリ効果もあり、オーナーも納得し、速攻で施工が決まりました。年1回の定期清掃の日にプールの水を抜くとのことで、水抜きの翌日に施工することになりました。

施工概要

施工手順

  1. プールサイド含む全てアルカリ洗浄
  2. 洗剤を洗い流す
  3. 溶剤塗布
  4. 中和作業(重曹10%)
  5. 水で洗い流す
  6. 効果確認

補足

こりゃアカンわ

手順通り施工を完了・・・となる予定だったのですが、結果はとんでもないことに。

施工結果は次の2点に絞ると・・・。

  1. プールサイドの滑りは止まったが、妙に足にベタつき感が残った。
  2. プールの底は滑り止めの効果がまったくない・・・「こりゃアカンわ」

こりゃアカンわ、再施工を打診

オーナーに立ち会っていただき、確認してもらいました。オーナー的には滑り止めといったら、こんなものかな?といったイメージではあったが、自分には嘘をつけません。

プールサイドはともかく、プール底は残念ながら効いてませんね。

正直にオーナーに話しましたよ。

幸いなこと?に3日間はプールの底を干すと聞いていたので、翌日、再施工することをオーナーに打診するとOKとなり、この日はとりあえず終了。本来、ここで一旦、失敗の要因・原因を探索するのですが、今回、翌日に再施工とした関係で他にやることを先優先としました。

溶剤確保に走り回る

他にやる事?施工溶剤が不足しています。本部に注文していたら間に合いません。緊急事態なので、近くにいるノンスリップマスターの他の複数の加盟店に連絡し何とか、8ガロン近く、借用することが出来ました(走り回ったよ・・・)。

その後、本部に今回の件報告したが、参考になる話は何も聞けなかった。早い話が誰もわからない・・・のです。本部が対応したのは溶剤の注文だけでしたよ、恥ずかしながら。

再施工。失敗は許されない・・・結果は?

再施工を実施。プールサイドはアルカリ洗剤を濃い目に希釈し再洗浄。ベタつきがなくなったので完了とし、昨日集めた溶剤を含め、すべての溶剤をプール底の施工に使うことにしました。

昨日の施工失敗の原因が不明である以上、いま自分にできることは、溶剤がある限り何回でもプール底面に塗りつけて滑りを止めることなんです。プール底、380㎡に10ガロン(1ガロン:3.87L)全部塗布しました。これだけ塗れば効くやろ。中和作業を終え、洗浄し効果を確認することに・・・。

結果は・・・

昨日同様、滑りは止まりませんでした。失敗です。
オーナーは少しは摩擦感があるので「これでもいいんじゃない」と言ってくれましたが、これで引き渡し料金をいただくようでは『滑り止めに残りの人生を賭ける』心ならずも決心した内藤の志が打ち砕かれてしまいそうな気がして、いたたまれなくなりました。

もう一度チャンスをお願いする!

もうこうなれば損も得もありません。もう一度施工させてもらえないか?オーナーにお願いしましたよ。オーナーは条件付きでOKしてくれました。

再々施工の条件とは?

プールに使う水の料金50万出してくれるなら、OKということです。
覚悟を決めての頼みだったので、条件を承知し再施工のチャンスを得ました。施工に関しては対策を練る時間が必要であるため、2~3ヶ月後ということで話がまとまりました。

原因が分からず困り果てる・・・

再施工後、1ヶ月経過しても失敗の原因が掴めません。本部に問い合わせしても、相変わらず不明のままで施工仲間に聞いても誰もわからない。そんな日々が続きました。

そんな中、ワラにもすがる気持ちでオーナーを訪ねることにしました。何でも良い、話の中に何かヒントになるようなことがあればと思ったんです。

オーナーとの話はメンテナンスを中心に聞き込みすることがテーマでした。プールサイドと水を抜いた後、プール底のメンテナンスをどうしているのか知りたかったのです。

残念ながらきっちりとメンテナンスはできていましたね・・・。困った困った・・・。話のネタも尽き果て帰ることに・・・。

ヒントはつねに現場にある

オーナーが見送りに来てくれましたよ。嬉しくなって「プールの水、他のプールの水より綺麗ですね」と、ついお世辞を言ったんです。

そしたらオーナーが、

うちは、週に一回、パック剤をキチっと入れてるからね

と答えました。

パック剤???

恥ずかしながら初めて聞く言葉でした。「何ですかパック剤って?」「知らないの?プールに浮いてる皮脂とか浮遊物を沈殿させるものよ」帰り際に交わした会話にヒントがあったのです。「パック剤」が何か関係しているかも知れない。と、直感しましたね。

原因はパック剤にあった

プールの水を浄化するパック剤。正直当時の私は知らなかったです。パック剤とは何ぞや?調査開始です。すぐ理解できましたよ。

主成分はアルミナです。アルミナとは酸化アルミニウムのことで、硬くて耐酸性に優れた物質であることがわかりました。施工溶剤はpH1を示す酸性ですが、耐酸性に優れたアルミナが長年の年月プール底に沈殿し、タイルの上にコーティング状態になって、滑り止め溶剤の反応を抑制しているのではないかと考えました。

ノンスリップマスターの溶剤では対応できないことがハッキリした以上、自分で何とかするしか方法がありません。なぜなら当時他に溶剤調達するメーカーらしきところがなかったのです。本家本元がこんなレベルでは、今後内藤の将来は夢無きものになってしまいます。

背水の陣。自ら防滑溶剤をつくることに

さて、どうするか?何から始めるか・・・。再々施工でもう失敗は許されません。失敗したら大赤字だけでは済まないのです。夢をなくすのですから必死に考えましたね。そして、ここでは記せませんが方法を見つけました。

誰にも相談できない状況だったので、アルミナを多く含んだ数種類の物質に、自作の溶剤を何度も塗り反応を確かめ、納得いくまで溶剤を作り、反応を確認・・・。この作業を幾度も繰返しているうちに、方法を見つけたのです。

再々施工はいかに?

オーナーから電話があり、8月に社内旅行で2泊3日でグアムへ行くということ。これが最後の機会となります。プールの底だけの再々施工です。うまく行くことを祈りつつ総勢6名で施工に挑みました。

もう必死のパッチってところですワ。

うれしかぁ~~~

もうこの一言につきます。やっとバリバリに止まりましたよ。損得なんて言ってられないのです。滑りを止められたのが嬉しかったのと、自分が負けなかったのが嬉しかったのです。

3ヶ月後もしっかり歩行できる状態に

施工後、3ヶ月経過した頃、改めてプール施設を訪問。効果確認のために伺ったのです。大丈夫。しっかり皆さんつま先立ちで歩行されています。オーナーの一言を頂戴しましたので手間味噌ですがチョットだけご紹介します。

オーナー談

内藤さん有難うね。まさかここまでやってくれるとは思わなかった。これってもしや元銀行マンのプライドがそうさせたの?

内藤談

いいえ。そうではありませんよ。滑り止めは私の第2の人生と決めたんですから、入り口でつまづく訳にいかんかったんですよ(笑)

おっと!大事な事を忘れてました。皆さん。表面張力っていうのは水面で発生するものですよ。プール底の滑り止めは見事に成功と相成りましたが、今は、水面下でシッカリと滑り止めの役割を果たしてします。

我々の滑り止めのメカニズムは、表面張力ではないのです。メカニズムについては、2013年頃から公表していますが、未だ理解されていないようです。極論を言えば、床材スタッドレス化と考えるべきなのです。

反省と新たな出発

ノンスリップマスター本部をはじめ、自分も含めて、全てが不勉強であったこと。提供された溶剤で、すべてのタイルの滑り止めが可能と考えた本部とそれを信じた自分に反省を求めるしかないのです。

この案件を最後にノンスリップマスターを脱会し、新たにセーフティとして新しい溶剤の開発にのめり込む内藤がスタートすることになります。

まずは
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滑りは単純なものでなく、床材、仕上げ、利用シーンなどさまざまな要因が絡みます。それらを客観的にプロの眼で確認することで、今なにが起こっているのか?を正確に把握できます。それらを認識せずに対策を行うと滑り止めはもちろん、美観維持にも支障が生まれます。

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