洗剤で大理石の光沢がなくなった!から始まるミステリーな顛末
汚したのか?汚れが落ちたのか??
先月のことです。週末の夕刻に、以前から親しくしている大手不動産会社のH氏から緊急の依頼が飛び込んできました。・・・「先生、助けて!!」
いつもと様相が違うので、何か余程の問題が起きたのか・・・少し緊張感を覚えながら話を聞きました。
大理石に汚水のシミが・・・しかも洗剤により光沢がなくなり、オーナーが激怒
話の内容をかい摘んで紹介すると次の通り。
弊社が一部清掃管理している物件(商業ビル)の大理石の床に、下請けの清掃業者が誤って汚水を落とし、シミをつくってしまった。清掃業者は慌てて、シミを取るために床の洗浄をしたが、その時使用した洗剤の影響で、大理石の光沢がなくなってしまった。
その結果、ビルのオーナーが激怒し、現状復帰か床の張替えをするよう申し出てきた。先生に現場を見てもらい、どうするべきか相談に乗って欲しい。・・・汚水を落とした箇所は、別途にビルオーナーが契約している清掃会社が清掃管理をしています。建物は築30年です。
取りあえず翌日午前中に、H氏と現場で会う約束を交しました。
翌朝、現場に向かうため準備していると、妻が高速道路の渋滞情報で、「今日は目茶苦茶混雑しているよ」と言うんです。「あっ今日は土曜日かぁ、えっお祭りもあるの?」
現地の高速出口が既に18キロ渋滞・・・仕方ないのでH氏に電話し、1人で現場に出向き、床の写真を数枚、私の指示通り撮ってメールしてくれるよう依頼しました。
大理石の床面写真を見て、ア然とする
約2時間後、メールが到着。写真を見て、ア然としました。問題のビルの床は奥と手前が2段になっていて、清掃業者が洗浄した床が上段で光沢は無いが綺麗になっています。
ア然としたのは、下段の床です。何も手を付けていないそのままの状態の写真ですが、鈍く、薄っすらとツヤがある程度なんです。光沢と言う表現をするレベルではありません。誰が見ても納得するであろう、築30年の大理石の本来の姿がそこに写っています。
これを張り替えろってか???・・・やっぱり現場見とかんといかんなぁ・・・ってな訳で、H氏とは別行動をとり、現地を目指し車に飛び乗りました。
夕方6時頃現場に到着。まさに写真通りの映像が目の前にあります。・・・・隅から隅までまでチェックさせてもらいました。・・・・。ビルのオーナー自らが、床張替えを提言したのか、誰かがオーナーに、この際だからと進言したのか・・・。
実は、現場を見てH氏が非常に気の毒に思いました。そこで、今回のテーマとして取り上げて皆さんと一緒に考えてみたいと考えたんです。私がチェックした後、何故H氏を気の毒に思ったのか、どう対処したのか、そこらは次回で詳しく記したいと思います。
事の顛末を詳しく聞くことに。そして大理石研磨という不可解な決定
現場を視察した後、H氏に電話し、ビル側の補修要請の内容と、H氏が所属するK社の対応方針を聞いた上で検討することにしました。
H氏の説明を簡略し紹介すると・・・
この商業ビルは10階建で、3〜5階に出店しているA社と管理契約をしている。当日は、A社の清掃日でワックスの塗布作業中であった。ワックス塗布の前に剥離洗浄し、洗浄後の回収した汚水を持ち出し、作業車に積み込む途上、1階に一箇所設置されている階段でバランスを崩し、回収タンクの汚水の少量を、階段の下部の床に落としてしまった。
慌てて落とした汚水を拭き取ったら、床が大理石であったため、その部分が白く変色した。大変なことになった!と慌てた清掃責任者は、階段の下部全体を洗浄した。その結果、床は綺麗になったが、光沢が無くなってしまった。
この一部始終を見ていた1階の清掃会社の清掃担当(高齢のおばさん)が、所属する清掃会社の社長に『床の光沢が無くなった。』と報告。・・・報告を受けたその清掃会社の社長がとった行動が不可解。
現場を訪れた時に、知人の設計会社の方と、石材屋さんを連れてきた。・・その清掃会社社長曰く、『大理石は、洗剤なんかで洗ったら駄目。だから弊社はいつも水洗いだけさせている。もうどうしようないなぁ、この石張り替えるしかない。』
石材屋、設計会社の方も張り替える事にウンウンと同意。・・・もっと不可解なのは、ビルのオーナーでなく、なぜこの3名が床の張替えを主張するのか・・です。
張替えとなると、コストの問題だけでなく、ビルの他のテナントさんにも迷惑をかけることになるので、『光沢を戻すために床を研磨させていただきます。』と言ったら、『ロケーションが変わるといやらしいから、ついでに上段の床面も研磨してくれ。』と言われた。
それは最もだと思い、床の上段、下段合わせて研磨することに社内決定しました。
ここまでのH氏の話で、事の経緯が理解できました。不可解な事は以降にも多く発生する今回のテーマですが、取り合えずこの段階における私の正直な見解を述べたいと思います。私も実際に現場を視察していますので、ハッキリと物申すならば、
大人気ない。(エー加減にしいや)同じ関西人として恥ずかしいですワ。
この一言です。取って付けた様な屁理屈には呆れてしまいます。
大理石は、希釈したワックス・剥離剤で変色するほどの反応はしない。
化学的に分析すると、現場に敷設されている大理石は、「◯◯◯ー◯」と言い、一般的に脆いと言われているポテチーノより更に脆い組成で構成されています。特徴の1つとして磨耗しやすい。さらにこの大理石のほとんどの成分は炭酸カルシウムで、アルカリ性の性質であり、ワックス・剥離剤の希釈液(アルカリ性)では基本的に変色するほど反応するとは考えにくい。(PH13の洗剤を塗って確認済。変化なし。)
次に経験則で言いますと、汚れの定着した床(タイル、石等)をそのままバフィングしていくと艶が出てきます。ドロ団子も長く手で擦っていくと艶が出てきて、床の間に飾っている人もいるくらいです。聡明な皆さんは、この時点で前回何故、私がH氏を気の毒に思ったのかお分かりになった・・・と思います。
全てを理解した上で、何故H氏、また所属のK社が大理石の研磨を決定したのか?掻いつまみ書いてみます。
なぜ、K社が大理石の研磨を決定したのか?
答えは、A社との取引関係の維持にあります。A社はこのビルの3〜5階に出店している会社で、他の地域においてもH氏の会社と管理契約をしています。
今回のトラブルの発端はA社のワックス塗布作業にあると判断したA社は、ビルオーナーに詫び状とA社の責任において、床の修復にあたる旨の文章を提出しました(金は出しませんがね)。
なぜ祭りの日に研磨施工?「なぜ?」の連続
現地視察の翌日、研磨作業の日程表がH氏より送られてきました。お祭りの最終日の翌日から2日間となっています。
「エーッ・・・」こんな日になぜ???
現地の祭りは比較的よく知られていて、多くの人が訪れます。基本的には避けたい日程ですが・・・とにもかくにも日程が決められた以上工事の段取りを急がないと・・・石の研磨を専門にしている業者はそう多くはありません。
しかも緊急工事で、お祭りの影響も関係してきます。さっそく過去から付き合いのある専門業者に研磨工事の打診をしました。・・・が、あの祭りの前後は、勘弁してくれ!と一蹴される始末。止む得ず東京の石材屋の前田社長にSOSを送ることに・・・。
前田社長は、私の新米弟子の1人として、最近付き合いだした人物です。彼が快く引き受けてくれたので本当に助かりました。テーマがテーマなだけに、気持ちの通じるパートナー程、心強いもんです。
翌日朝、段取りも出来てホッとしていたら、H氏から日程変更の電話が入りました。2日の日程を1日に変更するよう、A社より指示されたとのこと。
『エッエーッ・・・』何故???
即刻、前田社長に連絡し、無理を承知で作業人員を増やし、2班体制にし、AM8時からPM6時までで対応するよう段取りを変更してもらいました。(本当は緊急に職人さんを確保するのは難しいんですよ)
2度あることは3度ある?
その日の夕方、H氏から再び変更の電話。今度もA社からの指示で2つの変更を言われました。
- 終了時間をPM4時としてほしい。
- 床の上段、下段の研磨の範囲を上段のみにしてほしい。
『エッエーーーーッ・・・』何故???
H氏も相当困り果てている様子が伺えますが、私も前田社長も・・・・大変でした。手配した職人さんは、他を断って来てくれている関係もあり、2班そのまま入ってもらい、AM7時から作業に取り掛かることでようやく決定する始末。
H氏から依頼されて、休日を挿んで6日目のAM7時に作業開始。作業は順調に終了し、一先ず”やれやれ”。・・・さて、次は1ヶ月の間隔をとって下段の研磨作業と、変更を余儀なくされた訳ですが、その理由は、ビル側が1ヶ月間、研磨の後の様子を見たいと申し出たからなんです。
研磨作業の様子をH氏の会社の皆さんが心配し、視察に来られたので、私は化学的な根拠を下に、今回のテーマについて皆さんに話をしました。・・・つまらんことで大変な事になりましたなぁ。はじめの1歩を間違えなければ、こんなトラブルに発展しなかったかもしれませんね。
剥離剤の回収液を溢したので、洗浄させていただきますと、先に一言連絡して洗浄していたら、展開の流れが変わっていたかも知れないと思ったからです。
ちょっとしたミステリー?ビル側と和解できるのか!?
1回目の研磨作業から1ヶ月を過ぎた頃、H氏から2回目の作業依頼の電話が入って来ました。基本的には、同じ職人さんに作業して頂く方が安心ってな訳で、再度東京の前田社長に出動をお願いすることになりました。
さて今回の作業は、階段を挿んで下段側床の研磨のはずでしたが、A社の指示表には、階段の立ち上がり部分と歩道側のスリットの部分まで研磨するよう書かれています(そこまで作業を終えて現状復帰とする)。
H氏は、いつもながら困惑しつつも、今回ですべてが解決するなら要請を受け入れると言います。肝心なのは、本当に今回の作業でビル側と和解できるか否かとなってきます。そこでH氏は、A社にその確約を求めに訪れましたが、・・・目的を果たすことは出来なかったようです。・・・何でやねん?
これまでの流れ まとめ
何やら、ややこしくなってきたので、今までの話の流れを踏まえて整理してみたいと思います。
- テナントとして、ビル側に責任を果たす立場にあるA社。
- 下請けの業者の不注意で発生したとは言え、A社と管理契約をしているH氏の所属するK社の立場。
- 汚水を溢したので床を洗浄し、綺麗に洗い上げ、まさかトラブルに発展することなど思いも寄らぬマジメなH社の下請け業者。
- そこへ、何してくれんねん・・と騒ぎだしたビル側と管理契約している清掃会社。もうどうしようもないから張り替えろと主張する、その社長が連れてきた石屋と設計士。
このテーマの初回に登場し、床の光沢が無くなったと激怒し、現状復帰を申し出たビルのオーナーは、H社とのテーブルに一切乗ってきません。全てをA社に任せたのでしょうか?
内藤の違和感の正体
研磨作業に入る前から、このテーマに不可解なものを感じている私ですが、最後に私の本音を記し結びたいと思います。
このテーマの本来の目的は”現状復帰せよ。”であります。上段のみを綺麗に洗い上げたので、下段との見てくれのバランスが悪くなったんであるならば、再度上段部を汚して、何度かバフィングしてやれば、それなりの艶は作れます。
上下のバランスがとれるまで繰り返せばいいんです。これが現状復帰であると私は思います。
にも関わらず、お互いに話し合いの場もなく、いきなり大理石を張替えるか研磨するかの2点のみが現状復帰のテーマとなったことに少々、違和感があります。
- 片方だけが綺麗になって、見た目が悪くなったんで、全体を綺麗にする。
- 綺麗になったら艶がなくなったので、イメージ回復のために、研磨し光沢を取り戻す。
事の始めにこの内容で、K社のH氏がA社を通じ、ビル側に打診し、了解を得ることが出来ていたら、誰もが納得したのではないかと考えます。
ビルと管理契約している清掃会社と、その連れの石屋と設計士は本来、今件に関与すべきではない。私の感じる違和感は、この3名にあります。洗剤で洗ったから光沢が無くなったと、無知を傘に言い放ったんですからね。それとも、別に何か意図でもあったのかな???
大理石の艶がなくなった本当の原因は、洗剤ではない
剥離回収液と、洗いに使った洗剤は、アルカリ性です。大理石がPH10レベルのアルカリで溶解することはあり得ません。
私の知る限り、商業施設の通路に敷設されている30年程度経年した大理石(多用されているのは、ポテチーノ、トラバーチン、セルベジャンテ、ぺルリーノ)等で、光沢を維持している施設は、ほとんどありません。
特例として2箇所の高級ホテルのポテチーノは35年経ってもいまだに光っています。それは、メンテナンス業者が毎日欠かさずバフィングをしているからです。
洗剤で洗ったから光沢がなくなったんではありません。長年、塗り重ねた汚れと言う化粧が落ちたから、それなりの年齢を重ねた顔が出てきただけです。
何はともあれ、間もなく決着がつきそうですが。・・・このテーマにおける教訓・・・・
請け負っている現場においては、たとえ些細なことでも勝手に判断せず、
必ず元請先に連絡し、元請先の責任において、指示を仰ぐこと
請負とは、読んで字の如く、請けたら負けるのです。故にリスクヘッジは不可欠なものとなるのです。