厨房の滑り止め施工中に滑って得た知恵!
施工マニュアルは当てにならん?
平成9年7月に、有名な某ファーストフードの厨房の滑り止め施工に出かけた時の話です。当時は滑り止めの仕事も十数件こなして、自信も芽生え始めていましてね。
営業がPM12時までだったので、作業は深夜となります。PM12時を回り、店長から作業開始のGOサインが出たので店内へ入りました。
ところが店内は、当日の後かたずけと、翌日の準備とで従業員がバタバタ動き回っていて、とても作業に入れる状態ではありません。しばらく様子を伺いながら待機していると・・・『◯◯君、危ないやろ。不用意に床に水落とすなよ』
従業員の一人が若手のバイト君に大声で注意する声が厨房内に響きました。・・・確かに厨房の床は、油まみれでヌルヌルの危険状態になっており、水が落ちれば目茶危険に発展するのは必然だったのです。
従業員がウロウロしている中、既に店長からGOサインも出ているし、遠慮なく床の洗浄を始めましたが、ヌルヌルした油汚れに洗剤を撒くと滅茶苦茶に滑って、ポリッシャーを回す際も足元が落ち着きません。
それに従業員が通れば手を止めたりと、作業は思うように進行しません。”早く店側の作業が終わってくれないかな”と従業員の進捗状況を探りに行こうとしたその時、自分の撒いた洗剤で足を滑らせ・・・
スッテンコロリン!!!
幸い怪我はしなかったものの、服を随分と濡らしてしまいました。
『水が落ちても危なっかしいのに、洗剤撒いたら滑るのは当たり前やないか』・・・ブツブツ言いながら自分を慰めつつ、・・・『こりゃぁアカンワ、何か考えんと危なっかしくってやってられんワ』
危険というピンチが差し迫り、現場作業者の安全性等考えも及ばない施工マニュアルに疑問を覚えながら、この現場をいかに終わらせるか手を止めて考えました。・・・この頃から現在の私流儀の原点の何かが顔を見せ始めたんです。
洗剤で洗うのを最後にもって行こう
私が言うと相方の神田君が怪訝な顔をして・・・
エー、先に洗わないって、一体どうするんですか?
神田君が驚くのは無理もないことです。
洗剤で汚れを落として、溶剤を塗布するのが普通
当時の本部が出しているマニュアルの施工手順には、まず洗剤で汚れを洗浄し、次に施工溶剤を塗布する・・・なんて絶対的な決めことがあったんですからね。
現在もそうですが、銀行員時代に培った経験則から私は、"絶対”と"必ず”の2つ言葉に信憑性を感じないんです。ましてや歴史の浅い溶剤系滑り止めの世界です。所詮、経験の浅い人達が創作したマニュアルですから、参考書としては使えても信憑性などあり得ません。
ノウハウの開示にはなりますが・・・真面目に滑り止めに取り組んでいる業者さんも大勢いらっしゃると思いますので、続けて書きます。
事前洗浄を最後に持ってくる???
ヌルヌルベタベタした厨房を施工するのに、マニュアルを無視し、最も滑りやすい現場環境作ってしまう洗剤での事前洗浄を施工手順の最後にもっていこうと私に指示され、ア然としていた神田君でしたが、数分後には
エー真面っすか。これなら施工時間の短縮にもなるし、一石二鳥ですね。
と満面の笑顔を見せてくれました。
あれから12年、この手法はセーフティグループにおいては定着していますが、マニュアル化している訳ではありません。
環境が変われば当然手法も変わります。床の滑り止めだからと言っても、その対象は敷設された床だけではないのです。
植物性油脂、鉱物性油脂、動物性油脂等の油脂汚れの付着状態によって考え方は変わるし、水道水、地下水、温泉等によって多様に変化し付着し続け、石化した汚れ等は、除去するために多大な時間とコストを要することとなります。
つまりは、事前洗浄の必要性の判断って言うのは、施工者の経験を基にした"目利き”が重要なポイントとなるんですよ。
では、現場においてはどうするのかって話になるんですが、実は、この記事を書き出す前にストップをかけられてしまいました。・・・これから先の突っ込んだ話は、社団法人全住防のアカデミーにて講義してほしいと言うのです。
公認資格者育成の為のアカデミーで、受講者には国から助成金が支給されています。私は防滑アカデミーの教授という立場でもありますので、社団の申し出には応じるしかありません。期待されていた方々には申し訳ないのですが、どうかご承知ください。
防滑作業におけるマニュアルは、現場環境によりその手法を変更せざるを得ない場合が多いので、あくまで作業の目安として活用するのが良いと考えます。