国宝級のお寺の滑り止め施工!100年分の汚れが歴史を語る
先月の施工先の一つに、古い歴史を誇る有名なお寺がありました。
百年ぶりの大改修の一環として、滑り止めを検討。そして弊社をご指名頂いた次第です。国宝級のお寺と言うこともあり慎重な打ち合わせを重ねました。
敷石は花崗岩のビシャン(たたき)仕上げ
滑り止めの対象となる敷石は、小豆島と付近の塩飽諸島から切り出された花崗岩でビシャン(たたき)仕上げとなっています。敷石、礎石をはじめ建造に関わるすべての資材は、当時の全国の門徒さんたちの寄贈によるものです。
鯉がいるお堀をどうするか?
養生をどうするか、溶剤をどのレベルに設定するか、弊社においても慎重に検討しました。中でも、とりわけ困惑したのが、鯉の生息するお堀の養生です。
敷石の延長先にお堀があり、お堀に向かって勾配があります。しかも、お堀の際に立ち上がりは一切ないので、排水は直接お堀に流れてしまいます。
そこで思いついたのが、6年前の手法です。一応私のノウハウですので、ヒントだけ書きます。竹を使いました。竹をどう使うのかは皆さんが考えてみてください。・・・一滴の排水も漏らすことなく旨くいきましたよ。
さて施工は、お寺の拝観が終わってからってことで、夜の作業となりました。セキュリティーの関係上、全ての門が閉鎖されました。お寺故にいっそう静観とします。投光機の灯かりの下施工開始です。
花崗岩に染み込んだ汚れをほじくり出す
静観とした広大な境内に投光機の灯かりが点り、幻想的な雰囲気の中で施工開始です。
今回使用する施工溶剤は、比重1.25レベルのものです。目的は、滑りを抑制するのは当然ですが、長年にわたり花崗岩に浸み込んだ汚れを穿り出す(ほじくりだす)ためです。
ビシャン(たたき)仕上げや、バーナー仕上げの床面は、面が凹凸であるが故に、汚水は吸収されやすくなり、結合粒子の隙間のあちこちに滞留蓄積します。そのために、できるだけ溶剤を花崗岩の奥まで送り込んでやる必要があるのです。
そして穿り出すために大きな役割を担うのが、重炭酸ナトリウムです。中和の際に発生する炭酸ガスが、石の中の汚れを掻き出してくれるのです。
汚れが浮き、床面がどす黒く
溶剤を床に捻じ込む意味で、擦りながら塗布していきます。5分程度すると溶剤反応の影響で汚れが浮き出てきて、床面はどす黒くなってきます。そこへ重炭酸ナトリウム水溶液を散布し、ポリッシャーをまわしていくと、チョコレートのペースト状の汚れで埋め尽くされました。
間髪入れずペースト状の汚れをバキュウムで吸い上げていきます。炭酸ガスで掻き出した汚れが再び床内に吸収される前に回収する・・・重要なポイントです。
100年前の顔がよみがえる
さすがに100年分の汚れともなると見事な色を醸し出してくれるものです。洗浄後の床はスッキリと、100年前の顔を取り戻しました。もちろん滑り止めの効果も復活です。
歴史ある建造物と、経年に伴い創り上げられた風情(侘び寂)と言うのは、尊厳を演出するものです。例え滑りやすくなったとは言え、床の一部分だけ100年前の姿に戻ってしまったんですから、複雑な思いが無い訳ではありません。
これも時代推移にあって、現社会から要求されるテーマであり、仏様もしかたならずや・・・とボヤイていらっしゃるかも知れませんね。
南無阿弥陀仏
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