某大橋の滑り止め施工。一滴の汚水も川に落とすな!
2002年の12月、今思えば大変に寒い日でした。
滑り止めを依頼された現場は、全長200m程の某大橋の歩道です。私の記憶にある大橋の下を流れる川は、異臭を発する程に汚染されていました。
川に一滴の汚水も落としてはならない
ところが、住民と行政の努力により、数年前から魚が戻ってきたことで、地元の住民が河川の保全保護管理に非常に神経を尖らしているということでした。
当然ではありましたが、発注者からの施工条件はかなり厳しいものとなりました。
川に一滴の汚水も落とさないこと
まさに、言うは易し行なうは難しです。困りました。本当に困りました。
それからの約3週間、大橋に出向いては隅から隅まで目を凝らして見て周っては、思案に暮れました。技術だけでは対応できません。知恵を尽くして立ち向かう必要があります。
大橋の歩道には、雨水が川に直下するようにいくつも溝が設けてあります。隣接した車道には、更に大きな溝が車道の両サイドにいくつもありました。
溝をどう塞ぐかと言うのも重要なテーマですが、施工で発生する汚水の処理も並行して考えねばなりません。すんての段取りに影響する最も重要なテーマとなるからです。
汚水を落とさないようにするには
大橋の両サイド端に排水溝を発見しました。排水溝とは言え川に接近しています。もしかしたら川に流れ込むように設計されているかもしれません。
他にないかと探したら、もう一箇所10m程先に排水溝を見つけました。そこでさっそく発注者に連絡をとり、排水が下水道へ流れるのか、川に流れるのかの確認を求めました。
発注者からの回答は、2箇所とも下水道へ流れるとのことでしたので、ほっと一息安堵しました。やっとスタートラインに立てます。
次に歩道と車道の溝をどう塞ぐかという問題です。土木にも精通した代理店高森君を伴い大橋を行ったり来たり、調べた溝の数は全部で44箇所にも上りました。一箇所ずつ全て丹念に調べた結果、全部川に直下するものでした。
溝を塞ぐだけじゃ駄目!!
歩道の端に12分の1程度の勾配があり、その部分約20平米に隙間無くテープシールが施されていました。試しに一枚剥がそうとしたら、なかなか剥がれません。接着剤でしっかり固定されていました。
事務所に戻り、打ち合わせ会議開始です。施工手順そのものから組み立てて行かなければなりません。通常、弊社の滑り止め施工は一日で完了引渡しを基本としています。手離れの良さが売りなんです。
しかしながら、今回のテーマは難問が多く、どうなることやら不安満載のスタートとなりました。ざっくりと会議の内容を記しますと、次のようになります。
- 排水箇所の特定
- 排水処理の手法について
- 車道規制の処置手法について
- 車道、歩道の養生手法について
- テープシールの剥離について
- 滑り止め施工作業工程について
- ガードマンの配置誘導について
- 作業人員と作業時間について
- 施工溶剤の選択と使用量について
- 給水車を含む資機材について
以上10項目についての話し合いが延々と続きました。
一日での施工完了を達成するためには、事前の打ち合わせと段取りが明暗を分けることになります。最後の最後まで悶々としたのが、テープシールの剥離と目詰めの2つのテーマでした。
剥離は作業時間の制限も考慮し、人員を増やすことで解決。溝の目詰めについては、一層目保水性の高いウエス、二層目に粘着性の高いパテ、三層目にビニールを重ねマスキングすることで、水の漏洩を抑えようと言うことで会議を終えました。
溝の漏水テストの結果は?
施工数日前、会議の決定に基づきテストしました。一層目から三層目までの目詰めをし溝を塞ぎ、バケツ一杯の水を流してみました。少なくとも4時間は水を滞留させたまま状況を観察する必要があります。
バケツ一杯の水を流して溝に滞留させて約4時間現場に待機。2名で出張していたので、一人は溝の監視、他の1名は歩道に吐き捨てられ踏みつけられて、へばり付いているガムの除去にあたりました。
そして、待つこと4時間・・・
いよいよ運命?の瞬間を迎えました。滞留している水をタオルに含ませバケツに絞り落とす数回の作業を終えて、一番上のマスキングを取り剥がしました。それからパテ、最後にウエスを取り上げ確認作業にはいりました。
結論は、ウエスがほとんど濡れていなかったので正解と言えます。じゃあこれでOK?・・・にならないのが水を使う現場なんです。
今回テストしたのは、よく晴れ亘った昼過ぎから夕方5時頃まででしたから、同条件であって初めてOKとなる訳です。実際に施工となる時間帯は真夜中なんで、あくまで参考に留めなければなりません。
温度差、湿度の差を加味した対策が別途必要となります。しかしながら、気分的に随分楽になりました。
防滑施工日 本番
施工日がやってきました。
- テープシールの剥離班8名
- 施工班6名
- 軽トラと水タンク管理担当各1名
- 高圧洗浄機担当2名
- バキュウム担当2名(車道専任1名)
- 手元は剥離班が兼務する
といった体制でスタートしました。
ここで皆さんはエッと思われるでしょうね。テープシールの剥離に8名も必要なのかって。
テープシールの剥離に8名???
12月の時折雪もちらついてくる凍りつくような寒さの中、20平米重ね合わせるように貼り巡らされたテープシールはそう簡単には剥がれません。しかも橋の歩道に貼っている事を考えると、接着剤としてエポキシ系を使っている可能性があります。
エポキシ専用の塩素系剥離剤を使うと、その毒性が作業者に悪影響を及ぼしかねません。8名の選択は、そういった事態を配慮してのことだったのです。
総勢20名という体制は500平米程度の現場においては異例なことです。通常の滑り止めだけなら8名体制で十分こなせる平米数なんですよ。車道専任のバキュームを配置した理由は、溝を塞ぐテストの結果に基づくものです。
施工当日は予測通り、雪がぱらついていましたから養生テープが昼間と同じ様にうまく接着するかどうかが問題となります。必要以上に水が滞留しないように念のために配置する事にしました。夜の8時を迎え、施工開始です。
いざ!滑り止め施工へ!
さあ、滑り止め施工の開始です。
まずは全員で養生作業に入ります。歩道班と車道班2班に分け、事前に打ち合わせした作業内容の再確認をしスタートしました。歩道班は数箇所に分散しているマンホールの目詰めと欄干の養生に、車道班は44箇所の溝の目詰めに取り掛かりました。
2時間程で養生作業を終えましたが、こういう現場で最も重要なことは確認作業です。全員でキッチリとチェックして回ります。熟練者揃いとは言え、何かあるのが現場なんです。幾つかの修正を施し、ようやく養生作業終了です。
書き漏らしていましたが、安全確保のため、車道の一車線は封鎖してます。
変則的な作業手順に
さて、ここからの作業なんですが、今回は手法を変えて望むことにしています。通常は、洗浄ー溶剤塗布ー確認ー中和ー洗浄・・と続きますが、与えられたテーマが難題であるが故に、開発メーカーとしての知恵を絞っての手法となりました。
大量の水を使う訳にもいきませんしね。手前味噌となりますが、私は10年もの歳月を滑り止め溶剤の開発一筋に費やしてきました。本音を言うとメーカーなんぞになる気なんてなかったんですよ。
しかしながら、使用目的によって変化する床材と滑りの関係、そして殆どの現場の作業に自ら加わっているうちに、必要性に駈られ看板を上げる事になったんです。
従って、今回使用する溶剤は、この現場のために製造したものとなります。薬品の比重を重くし、界面活性剤を調整し、反応性を高めたものです。弊社しかできないことかもしれませんね。
シミュレーション通り施工は完了し、難題であった44箇所の溝の目詰めのチェックに入りました。ハラハラドキドキでしたが、結果は溝の一番下に詰めていたウエスに少しの湿りを感じたのが5箇所あった程度で、無事クリアーしました。
この現場に参加した一人に“防滑、ソグナップ”で代理店ビジネス展開をしていた三浦浩之君がいたことを報告しておきます。現場研修の一環として参加させました。現場作業は器用にこなす子でしたね。もっと多くを勉強させたかったんですがね。
某大橋に隙間なく施されていたテープは、何のためなのですか。
汚水が川に流れ込まないようにですか。
4時間、水を滞留できたのですか。知りたい。
知りたがり屋様へ
コメント有難うございます。ブログを毎日続けるのは本当に大変だと思い始めたブログ新米の内藤です。滑り止めにおいて、小生まだ修行中の身でありまして、現場へ出向いたり、営業に出たりと、まあ何ら皆さんと変わらん事やってますんで・・・・少々書き込みにズレが出てしまいます。すみませんね。ちょっとだけ待ってください。
何故に薬品の比重が反応を高めるのかが分かりません。
弊社(セーフティさん)しかできない「技」なのですか。
ちなみに私もソグナップです。
ソグナップの前田様へ
製造現場と施工現場が離れていては決して良い仕事にはなりません。以前、ブログに記したように、現場で悩むたびに新しい施工溶剤が1つづつ増えていきました。技とは違います。私は元銀行マンです。どっちかいうと不器用なタイプだと思っています。さほどケミカルの分野に精通している訳でもありません。ただ胸を張って云えるのは、誰よりも多くの現場をこなし、そして誰よりも沢山失敗を繰り返し、その都度解決していった事がノウハウとして蓄積され、それ故にこの防滑の仕事をこよなく愛し誇りに思っているという事です。長い前置きになりましたが前田様、施工溶剤の成分の中には、フッ化物が入っています。そのフッ化物は酸性成分に反応し、そして床材のシリカ(sio2)に反応します。フッ化物も、混入されている酸性成分も水より比重は高いものです。従って、現場の床材がどういう性質のものであるのか知っているか否かがポイントとなります。それにより薬品の配合が変わります。ついでに書きますが、だからと言って酸性成分とフッ化物をやたらに増やしたりすると新たなトラブルを招くことになります。床材というのは、人と同じで種類も多く、好き嫌いを表現するんですよ。・・・こんなんでご理解いただきましたでしょうか。
正直に申し上げますが、ここまでのお答えを頂けるとは思っていませんでした。
ひとつひとつが頷けます。現場を石を知らずしてここまでは書けませんから。
頭が下がりました。
僕はまだまだ知らないことだらけです。また質問しても良いですか。
早速なのですが、酸性成分とフッ化物を増やすとどのようなトラブルを
招くことになるのですか。
前田様へ
フッ化物は酸性成分に反応しますが、酸性成分の種類によって、その反応性は大きく変化します。書き出すと難しくなりますので簡単に言うと、各々酸性成分のイオン分子がフッ化物のイオン分子と結合した時に熱を発したり、逆に冷たくなったりと色々変化する事があります。水に硫酸を混入した場合、熱が発生しますよね。こういった酸性成分にはフッ化物の反応性は高くなりますし、クエン酸等の場合の反応性は低いものになります。参考にしてください。さてご質問に対するコメントとなりますと、床材によってかなり異なりますので一つ例をあげて回答とさせていただきます。磨きの黒御影(インパラ)の場合、パワーを持ち過ぎたフッ化物が、石の成分の76㌫強を占める石英(シリカ)に過剰に反応します。更に、酸性が強すぎると、他の数㌫のカルシウム、カリウム等を酸がぶっ飛ばしてしまいます。その結果真っ黒であった石が、グレーの石となり光沢も無くなってしまう事になります。こういう現象が起きてもロケーションが変わらないと堂々とPRしている業者が殆どですが・・・困ったものです。前田様、参考になればいいんですが、ここまでにしておきます。
なるほど・・・。反応させる相手(床材)のことまでをとことんご存じなのですね。
コメントから伝わってきます。ありがとうございます。
またお邪魔させていただきます。
はじめまして。数日前、御社のホームページを開きなんとなくタイトルがおもしろそうなのでブログを見ました。感想をいうとう~んの一言です。自分は防滑という仕事を舐めていた気がしてます。全部印刷しました。また全部読み返しながら勉強したいと思います。某大橋の工事をどうして終わらせたか、内容がカットされているように思えるのですが・・・もしよかったら教えてもらえないですか?それと本当に14年間防滑だけで事業されてきたんですか?
関西で悩んでいる男様へ
結構踏み込んだコメントですね。某大橋の施工手順と手法については、多くのヒントを書いていますので、ご自身の感性で是非とも想像してほしいと思います。それから14年間防滑一筋で?というご質問ですが、本当です。滑り止めに関しては、類似他社が取り扱っている商材も当然ながら並行して研究してきました。滑り止めに関するものは、全て揃っています。ただ、高分子床材、木等については、大手をはじめ長年に渡り研究開発が進んでいますので、私ごときが首を突っ込む必要はないと考え協力して頂く事に徹しました。石材、タイルだけでもその種類は無限に近い?ものがありますし、体育会系の私の進むべきはこっち側であると考えました。現場で汗かいて床を知り、汚れと滑りの関係を知る。汚れの性格を知り、洗剤の適合性を覚える。滑って転倒した人の話を聞き、その原理と要因を追求する。等々・・色々と試行錯誤を繰り返しているうちに14年、こんな事ばっかり飽きもしないでやってる何とか馬鹿の一人かもしれませんね。
川に一滴も落とさない作業はかなり大変だと感じますが、、
そもそも事業用水だと思うので中性に戻して産業廃棄物として処理をしなければならないのてはないでしょうか??
コメント有難うございます。
ご質問は廃棄物処理法を指しての事だと思います。本件の受注にあたっては国交省の担当者と十分に話し合っております。MSDS・施工手法・中和処理手法・排水処理手法など検討した上で水質汚濁防止法に準じて実施したものです。
そうなんですね!
集約されて書かれていると思いますので理解はしずらかったですが国の担当者と話し合っての事で有れば問題ないんだなとわかりました。
ひとまとめで事業用の産廃や廃液はその様に処理するものだと考えておりました
ちょっとした疑問に
わざわざ回答有難う御座います