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プールの底を滑り止めできるのか・・・防滑職人の奮闘記

今こそ積年の思いに終止符を

積年の待ち人来たり・・・今まさにその心境です。某市役所からプール底の滑り止めの見積依頼がきました。

平成10年以来13年ぶりのテーマとなります。私のブログを熟読されておられる皆さんの中には、オヤッと思われる方もいる筈です。確か以前に失敗談の1つとして紹介した事があるからです。

13年前のできごと

13年前・・・悔し涙・歓喜の涙その両方を経験した年でもありました。

当時の弊社は静岡に本部を置くH社の1加盟店でした。・・・ある日の事、奈良にある某スポーツ施設からプールサイドの滑り止め依頼の電話ありましてね。そりゃぁ喜んで施設に飛んで行きましたよ。施設では社長自らが私と商談対応してくれました。

で、その時に社長が・・『内藤さん、先にプールを見にいきましょう』・・って言うもんですから何も考えずについていきました。プールは会員さんとスッタフ延30名程で賑わっていました。

想定外の依頼内容にとまどう

プールサイドの状況をチェックしていたら、突然に社長が声をかけてきました。

内藤さん、プールの底だけど滑り止め出来る?

・・エッ・・(゚ー゚;・・

思いもよらぬ事でしたから、マジに返事に言葉が詰まってしまいましたよ。・・・プールサイドへ案内された時には普通にプール利用者が多いなって感じでしたが、話を頂いて改めてプールに目を向けると、ナルホド25名程は確かに歩いていらっしゃいました。

社長曰く、・・・『実はうちのスタッフと会員さんから、歩いていると腰に負担が掛かり過ぎてしんどいって話が最近多くて、対策を考えていたんです。原因は底が滑るのでつま先で踏ん張りながら歩いたり、運動しているから必要以上に腰に負担が掛かかるんでしょうな。だから底を滑らんようにしたいのよ。』・・・

プールサイドの話がプールサイド+プールの底の見積りに・・・エラい事になってしまいましたが、プールの底が出来るか出来ないかは後の話として、取り敢えず見積りの提出をする事で話を終えました。

本部に協力依頼しても・・・

会社に戻ると早速本部であるH社にその旨を連絡し、協力を求めました。・・・ところが・・・過去に事例が無いって事で協力を断られてしまいました。仕方がないのでアメリカに電話を入れてみましたが、アメリカでも成功事例が無い事が判明し×。・・・つまりは、やるんなら自己責任でやれって事になってしまいました。ε-(¯ヘ¯)┌ ダミダコリャ…

当時は結構失敗もやらかしてましてね。それ故に滑り止めの奥の深さに面白味を感じていた頃でもありました。・・・そこで私が次にとった行動は・・・

プール底の滑り止めは前例がない?

本部とアメリカの両方に協力拒否されてしまい、さてどうするか正直悩みましたね。世界で実施した例がないって事はオイラが初めてって事?になる訳ですからね。それにしても情報が無いって言うのは不安なものです。平成7年からがむしゃらに突っ走ってきた3年間で、最も大きな壁が立ちはだかりました。

頼れるのは自分自身のみ。仕事が欲しいって言うのもあって覚悟を決めました。滑りが止まるか止まらんかは試してみないと分らんってんで、即刻プール底に使用されているタイルとよく似たタイルを入手。それを36(さぶろく)のコンパネを四つ切りにし貼り付けてみました。

それから貼り付けたタイルに防滑処理を施し、我が家の浴槽に沈めて恐る恐るその効果をチェックするこ事に・・・滑り止めの効果があれば何にも悩む事はないのですから。・・・

表面張力が水面下で起こらないことを発見

アレレ??ちゃんと効果が出ているじゃありませんか。・・・実は、この結果は本家本元であるアメリカが日本に示した滑り止めのメカニズム・理論を覆す事になるのです。

表面張力は水面にて起こる現象であって、水面下では発生しないものだと私的には認識しています。故にアメリカの理論即ち表面張力の作用で滑りが止まるって言うのはプール底の滑り止めには当てはまらないのです。・・・??

その後、早い月日の中でメカニズムを解明する事になるのですが、・・・ともあれ結果は出ました。早速施設の社長に連絡を入れプール底の防滑施工を快く承諾しました。

人生最悪の結末が待ち受けている事も知らずに・・・
世の中そんなに甘くはなかったのです。

我が家の浴槽で成功したテスト用サンプルを施設に持ち込み、社長立会のもと1.2m下のプール底に沈めて、腰の痛みを訴えていた身長150cm程の女性メンバーさんにつま先で歩いてもらいました。

『楽に歩ける』と絶賛していただき、その場で施工の日程を決めてしまう程、話はトントン拍子に進んでいきました。

その年の8月3〜5日の3日間が施工日と決定し、胸躍らせながら事務所に戻った・・ある意味で生涯忘れる事のない1日でもありました。

1ガロン入の施工溶剤を10本(当時68万程したと思う・・)と洗剤を注文し、施工のシュミレーションを幾度どなく重ね準備は万全に整いました。・・そして施工当日を迎えます。

1日掛けて水抜きを完了したと言うプールの底と初めての対面です。25メータープールとは言え公認プールで8コースありますから400㎡の広さがあります。プールサイドが250㎡で合わせて650㎡の当時としては大規模な現場でありました。

施工開始!

施工手勢8名をもって施工に取り掛かります。・・まずはプールサイドの洗浄を皮切りにほぼシュミレーション通りに施工は順調に進捗していきました。午前中にプールサイドの施工を終え休憩を挟み午後からプール底の施工に臨みました。

こちらも洗浄からスタートし施工溶剤の塗布までは順調でした。

ところが、中和作業を終え自信満々に効果の確認をしたところ、若干の摩擦感はあるものの本来のピタッとくる感触が無いのです。しかもプール底全てが同じ感触なんです。

何かがおかしいと思う前に、事前のテストで成功している訳ですから、こんな筈は絶対にないと思いました。もう1回塗れば必ず効果は出ると信じて疑わなかったですね。

2日目、在庫の有りったけを持ち込んで2回3回とタイルに塗りこんでいきましたが・・・結果は1日目の状態から変化する事はありませんでした。・・失敗?・・なんでや?・・頭の中がこの2つの文字でグルグル駆け巡りましたよ。

天使と悪魔のささやき

『若干の効果(摩擦感)をもって工事完了(うまく誤魔化せば・・)として収められるかも知れない・・』
『いやイカンぞ。このままで終わらせたら世界中で誰もプール底の滑りを止める事が出来なくなる。いくら損こいてももう1回やらんとアカンやろ』

私の心の中で悪魔と天使が戦い始めました。・・『もう1回やる言うても効果の無い溶剤じゃぁどないしようもないやろ』・・『チャレンジすれば?溶剤作ったらいーじゃん』・・『今度失敗したら会社潰れるぞ。』・・

葛藤の渦に飲み込まれ我を失っていたその時、効果の具合を見にきていた施設の社長が私に声をかけてきました。・・『セーフティさん、こんなもんなんですかね。』

突然我に返った私は、『あきませんワ。効いてませんナぁ。』・・アー言うてしまいました。今までの葛藤は一体なんだったのでしょうか?・・・

もう1回やらせてもらえますか?

腹をくくって社長にお願いしてみました。

『社長、もう1回やらしてもらえませんか』・・すると社長は・・『かまへんよ。10月に社内旅行(グァム島)を2泊3日で予定しているから、その時にでもやってちょうだい』

あーヨカッタと胸をなで下ろしたその瞬間に社長の一言・・『ウチは温水プールだから水代と燃料代はセーフティさんが持ってな。』・・そりゃそうですわな。当然ですわな。・・『そんでナンボくらい掛かりますのやろか?』・・『ちょっと待ってな』ってんで社長は事務所へ・・戻ってきたその手に明細書がありまして

えーとね。燃料代入れて50万チョットかな。

ただ(無料)程に安いと思っていた水の料金が50万・・・もう私は返す言葉もありませんでした。社長が提示する条件を全てを受け入れ、会社の存亡を掛け10月の再施工を目指すことにしました。

なぜテストでは効果が出るのに、本番では反応しない!なぜ?

3ヶ月後に再施工をお願いしたものの、何故反応しなかったのか原因が掴めません。現場で敷設されていたタイルはドイツ製の公認プール仕様のセラミックタイルです。

数日後、メーカーを調べ10枚サンプルを調達し、改めて溶剤を塗ってみるとちゃんと効果がでました。浴槽に沈めて確認もしました。しっかり歩けるレベルに仕上がっています。・・・怒るでぇホンマ、なんで効くねん。情けなくなりましたよ。(u_u。)

考えられる事は、プール開設後の10年間でプール底のタイルに何らかの変化が起きているって事です。・・・『真実は現場にあり』って言いますが、年に1回清掃の為に水を抜く以外、常に水の下にある訳ですから、現場のタイルをチェックする事は出来ません。さてさてどうしたものかホンマに困まりました。

防滑仲間から持ち込まれたタイル

施工失敗から2ヶ月も過ぎた頃です。

まだ対策が見つからず思案にくれていたある日の事、仲間内から面白い話が入ってきました。・・・『タイルメーカーS社のタイルなんだけど、溶剤を何回塗っても滑り止めの効果が出ない。何か良い方法がないものか?』・・・『プール底のタイルじゃあるまいし、問題なく効くわナ』・・・

私がそんな事を言うもんで、それなら試しにやってくれとばかりに、仲間が早速そのタイルを私の所へ持ち込んできました。

普通の磁器タイルにしか見えないそのタイルなんですが、叩き合わせてみると金属音に近い音がします。ともあれ手速に溶剤を塗ってみると、仲間の言う通り全く効果がありません。そうなると当然2回3回と塗り重ねていったんですが、何の変化もありません。・・・たかだかタイルの世界で、(関係各位様お許しを・・)自分の知らないモノがこれ程あるのか・・・思い知らされて愕然としましたね。

このタイルの滑りを止められたら・・・プールも

暫くの間ただ呆然とそのタイルを眺めながら思いました。

このタイルの滑りを止められたら・・・もしかしてもしかするかも・・・

そうなると早速S社に連絡しサンプルタイル10枚手に入れ、ついでに駄目もとで、S社に2~3質問してみましたが(焼き温度、粘土、釉薬等)一切答えてはくれませんでした。

もうこうなったら諦める訳にはいきません。・・幸い私は唐津焼や有田焼で有名な唐津市の出身で、其々の分野で陶芸作家としてそこそこ名を知られている旧友が何人かおりましてね。彼等に白羽の矢を立てる事にしました。

陶芸作家が糸口をくれた

20年ぶりの珍客の強引なまでの質問攻めにも拘らず、彼等は気持ちよく多くの事を教えてくれました。やはりそこには大きなヒントがありまして、ようやく原因が何であるのか突き止める事が出来ました。

粘土に混ぜ合わせるある物質の量と、その物質をタイルに馴染ませるための特殊な焼成方法に問題があったのです。

こうなったら自分で溶剤をつくるしかない

ようやく糸口が見つかりました。糸口が分かれば、次はどうすれば反応(効果が発生)するのか・・・。こうなったら溶剤を自分で作るしか道は無い。ど素人に近い私ではありますが、会社を潰す訳にはいきません故に覚悟を決めました。

日々、朝から晩まで試行錯誤の繰り返し。・・・おおよそ1週間ほど続いたと思います(こんな馬鹿は他にはおらんでしょうが・・)。ようやくその施工手法とピッタシの溶剤配合にたどり着き、S社のタイルにバチバチの効果をもたらす事に成功しました。

取り敢えず再施工の第1の関門を突破。机上のテストでは成功したものの現場で上手くいくとは限りませんが、後は運を天に委ねる事にして、次は施設の社長に幾つかの重要なお願いを聞き入れていただくテーマが控えています。全ての了解が得られないと再施工に赤信号が灯る事になるのです。

初回に失敗した原因とは?

プール底の再施工にあたり施設の社長を訪ねました。まずは再施工の手順を明確に説明し、次のお願いを申し入れました。・・『プールの中水栓の使用許可』です。・・

作業手順書にその必要性の詳細を示していた事もあって、社長は快く承諾してくれました。

温水プールは水温が高い関係もあって、塩素の蒸散が一般プールより若干多いようです。従って塩素の投入量も当然増えます。それにもう1つ、温水であるが故に利用者の皮脂等も一般プールより多く出ます。

そのために循環装置があるのですが、それだけでは皮脂等を十分に回収出来ないのです。浮遊混合している物質を処理する為、施設では色々工夫を凝らしている様ですが・・・。

前回の失敗の要因は、長い年数においてタイルに堆積したそれらが結晶化し、バリヤーとなって施工溶剤を受け入れなかったのです。その為に剥離の段階で使用する薬品もハードルを上げる必要がありますし、施工溶剤に至っては、タイル内に染み込んだ結晶を掻い潜らせ反応させて隙間を広げる必要があります。

いずれにしてもそれなりの薬品を使用する以上、単純に中和処理して排水って訳にはいかないのです。プールの中水栓使用をお願いしたのはその為だったのです。多量ではなく大量の水が必要だったからです。

無事に防滑施工が完了

11月の初旬、施設の社内旅行の当日に再施工実施となりました。我々のために残ってくれた施設担当者に感謝しつつ、済々と作業は進捗していきました。

結晶物を除去し、中和し、海水レベルに達した残留物を大量の水で希釈し・・・多少の不安はありましたが、その後に塗布した溶剤がちゃんと反応した事を思えばようやく上手くいったみたいです。

平成10年8月、今思えば唯一弊社がしくじった施工です。

相当なロスを計上しましたが以降、この事件?の反省も手伝ってか、愚かにも床材と溶剤の相性という不透明で訳の分らんテーマに首を突っ込んでしまうことになるのです。・・・・

この記事を書いた人

内藤 憲道

内藤 憲道

多種多様の床材や状態に合わせて滑り止め溶剤を調剤し、美観をまったく損なわずに滑り止め効果をつくる防滑のエキスパート。溶剤系滑り止めでは、業界の第一人者。全国で活躍する防滑業者の多くは、内藤の理論がベースになっているとかいないとか。メンテナンス業界では防滑に限らず床材のドクター(研究者)として知られ、大手ゼネコン、タイルメーカーはもちろん、同業者から現場相談を受けるなど、(一部では)圧倒的な信頼を得ている。

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