SUBERANAI BLOG すべらないブログ

滑り抵抗を数字で継続管理していくためには

先日、弟子のFが、またまたややこしいテーマをぶらさげてやってきました。「最近アイツややこしい話ばっかり引っ張ってきよるナ」なんて言いながらもここ数年、私を悩ましてくれる弟子が居なかったこともあってか、まぁ何とかしてやろうかと考えています。

鉄道、道路、住宅等の関連施設には、滑り対策および管理手法について、以前から幾度となく苦言を呈してきました。最近、滑り対策についてはいづれの施設においてもそれなりの対策を講じているように思います。

彼等が採用している滑り対策としては、弊社を含む溶剤系での防滑、エポキシ系のコーティング、ショットバーナー、階段の段鼻へのロジン等々が見受けられます。そして其れなりの努力が伺えるのです。

にもかかわらず、転倒事故が発生し数件が裁判沙汰となっているのです。・・・何故でしょうか?・・・F君が持ち込んだテーマの回答にも繋がるやもしれないので、解決策の検討も組み込みながら書いてみたいと思います。

なぜ、滑り測定(CSR・ASTM)を実施しても、事故が起こるのか?

官能判断(官能テスト)は、人が判断するので信用できない。
その点、マシーン(CSR・ASTM)は正確に安全を数値で表現するから間違いがない。

これは事実、官公庁およびそれに準じる機関、施設の管理責任者から、過去いくたびも浴びせられた言葉です。

そしてこの言葉を裏付けるように、各所其々にCSR・ASTMといった計測器を所有し、定期的に摩擦の計測を実施しているようです。・・・CSRの0.55や0.56、もっと基準を上げようってんで0.57以上の床材しか採用しないとかで、頑張っていらっしゃる所もあるようですが・・・。

誠に結構なことであると考えますが、それでも

  • スリップ転倒が発生し裁判沙汰に発展するケースが後を絶たないのはなぜか?
  • 高い摩擦係数値が計測されたら滑り対策が万全といえるのか?
  • 施設は保全されるのか?

私的には言い訳材料を各所が作成しているようにしか思えません。

人の感覚(官能)が、すべる・すべらないを決める

結果的に残念なことですが、過去の裁判において摩擦係数値は参考にはされても、重要視されていないのです。

要は滑る滑らんが問題であって、裁判ではCSR・ASTMの数字は反映されないのです。裁判で優先されるのは官能テストとなります。即ち、スリップを実証し得るのは人の感覚(官能)でしかないのです。・・・従って冒頭に紹介した施設管理責任者の言葉、思考は滑りの実証を否定していることになっているのです。

計測には人と機械のどちらも使う

だったら、何が間違っているのか?どうすれば良いのか?ってことになりますが、決して難しい問題ではないのです。考え方として言えるのは、まず

  • 計測器を正しく理解すること
  • 基本的に滑りの計測器に関しては、すべてにおいて官能テスト(実証)が前提にあること

を理解することです。

簡単に言うと、定期的に摩擦の計測を実施する際に、数字を記録するだけでなく、滑るか滑らんかの確認も合わせて実施し正直に記録を残せば良いのです。摩擦係数値がいくら高くても、滑るものは滑るからです。そして、高い摩擦係数値とは真逆に滑りを感じるのであれば、対策を打つべきでしょうね。

摩擦係数値の高い床材が比較的に安全であるは、誰もが承知のことではあります。仮に経年し磨耗が進むんだとしても、摩擦係数値は依然として高い水準を示します。しかし、すでに滑りやすい環境下に置かれていることも承知しなくてはなりません。

計測と官能テストを常に併用する意味はそこにあります。・・・各所施設には10年来提唱してきましたが、未だ理解されていないような気がします。・・・┐( ̄ヘ ̄)┌ フゥゥ~

すべりの官能テストとは?

さて、各所施設にも反論の余地はあります。

簡単に官能テストを実施せよって言うけど、そのたびに施設利用者(お客様)に協力を求める訳にはいかない。

最もなことでしょうね。だからと言って現行のままでは不安を脱しきれない現実が見て取れます。

そもそも官能テストってどういうことをするのか?一例を上げてみます。

まず不特定多数(20人~100人)の人にテストしたい床を歩いてもらいます。事前に準備したテストシートに年齢別・履物別に○印を求め、さらに、①非常に滑る②やや滑る③やや安全④非常に安全の①~④のいずれかに感じたまま○印を記入してもらう。③と④の○印が8割以上であれば、テストした床は安全とされるのです。

担当者が自分の足で滑りを確認すればカンタンなこと

各所施設の方は、この方式を毎回お客様にお願いする訳にいかないと言っているのです。最もだとは思いますが、だからといって摩擦の測定だけで済ましていたんでは安全の確認にはならないのです。

要は測定する担当者が、測定後に随時乗って確認すれば済むことなんですが・・・自信がないと言うか万が一の責任を被りたくないと言うか、そこらが見え隠れするんですよね。・・・だったら我々プロフェッショナルに委託すれば道は拓けると思うのですが・・・。

そこらを考えた弟子のFが、定期的な計測の委託を提案したようです。すると今度は「その計測器は公的なものか?」とツッコミが入ったみたいです・・・。計測器も最近いろんな会社が作っていますが、無機の床材の摩擦を計る公的な計測器って私の中で特別なものは存在しないのですが・・・。

しかも、勝手に公的と判断した摩擦測定器の摩擦測定値のみで管理してきた結果、スリップ事故が発生し裁判沙汰になっている訳ですから・・・なんと懲りない、反省のない方々ばかりなんでしょうか。

自己保身に走る傾向はどこの施設にもあり得る事です。しかしながら残念ではありますが、現時点レベルでの保身策だけでは自分を守れないのです。「守る」ってことを言うと、関係各所の方々は基本100%を望まれますが、これも無理な期待となります。100%の管理ができれば可能なんでしょうが・・・それこそ100%不可能なことですからね。

自分の身は自分で守る

要は自分の身は自分で守ることが、すべての基本なのです。健康維持や交通ルール心がけるのと同じように、床も自分の身の一部分として捉えることです。検査・検問の情報が事前に知らされると、誰しもがそのための準備対策をするでしょうが・・・ね。それも周到にね。

だから言ってるんです。定期的に摩擦を測定しているんだったら、ついでに床に乗って滑りの確認もしておけってんです。そしてその結果報告を正しく記録し変化があれば、その都度対策を打つ、しかも周到にね。・・・(o^-^o)

滑り測定器 PPDスリップメーター

この記事を書いた人

内藤 憲道

内藤 憲道

多種多様の床材や状態に合わせて滑り止め溶剤を調剤し、美観をまったく損なわずに滑り止め効果をつくる防滑のエキスパート。溶剤系滑り止めでは、業界の第一人者。全国で活躍する防滑業者の多くは、内藤の理論がベースになっているとかいないとか。メンテナンス業界では防滑に限らず床材のドクター(研究者)として知られ、大手ゼネコン、タイルメーカーはもちろん、同業者から現場相談を受けるなど、(一部では)圧倒的な信頼を得ている。

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  1. 栄サービス より:

    この問題には、企業のリスクマネジメント管理や出世コースを含む配置換え等の根深い問題がある様に思います。

    リスクマネジメント委員会があり継承している会社は、施設の管理責任者の配置換えによる再説明が発生し難いが、施設の管理責任者が権限を持っている場合は、配置換えの度に説明する事になります。

    出世コースの1つに、施設の管理責任者がなっているのもあります。
    最大の原因は、監査でしょうね(^-^;
    リスクをコスト化できていない、現場を知らない監査は、数値のみで物事を決めたいのが大半で、基準値のみで判別したいのではないでしょうか?

    しかし、何時までスリップ転倒で裁判沙汰になって、施設管理は負け続けるつもりなのでしょうか…

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