SUBERANAI BLOG すべらないブログ

1999年、日本で初めて“セラミックタイル専用滑り止め溶剤”を開発した経緯

セラミックストーン(セラミックタイル)が、今まさにPタイルに取って代わろうとしています。

今回は、9年程前にセラミックストーンのパイオニアである某メーカーの社長に頼まれて、セラミックストーン専用の滑り止め溶剤を研究開発し、成功に至るまでのプロセスの一端を書いてみようと思います。

タイルメーカーの苦慮!!(トップの悩み)

1995年エジプトタイルとして我国において、本格的にセラミックストーンの販売を開始。セラミックストーンとは原材料であるエジプトの石を微粉末にし、2,800トンでプレスし、1280度で焼き上げた高密度タイルでモース硬度6、極めて石に近い、通称、疑似石と言われるもの。

販売は順調に推移しているが、更に躍進する為には、磨きのタイル販売をメインに長期的な販売戦略の強化を図る必要がある。

その理由の1つは、販売開始以降、磨き以外のタイルの売上げが先行しているが、汚れのトラブルが多く、その対応に振り回されている。滑りの問題を考えると、磨きのタイルは直接的に雨の影響のない箇所にしか使えないし、かと思えば、雨の室内への持込で滑ることへの配慮も必要となってくる。

滑り止め業界が大きく変わるほどの無茶振り依頼

セーフティさん(内藤さん)、冗談話で聞いてもらっても結構ですが、磨きのタイルの光沢、色合いを95パーセント以上残して滑りを止めて、ASTM(英国方式で振り子方式による静摩擦係数測定器でBPNで表現し40以上が安全の目安とされる)で40以上をクリアするようなものができませんか?

万が一にでもそんなのが出来たら、この業界そのものが大きく変わる。弊社の販売戦略を磨きのセラミックストーンをメインにシフトできるし有り難いのですが?。・・・・・研究の為にと数枚のセラミックストーンを渡されて・・・・・とんでもない依頼を受け、困惑しきりの内藤でした。

※業界用語ではセラミックタイルとして流通していますが、従来のセラミックタイルと区別する為に、あえてセラミックストーンと呼んでいます。今日、滑り止め業界で類似の業者さんが、普通に使っている勝手な内藤用語の1つです。タイルメーカーにおいては、用語特許の関係等がありセラミックタイルとして取り扱っているのかも?

セラミックストーンとにらめっこ

メーカー社長から渡されたセラミックストーンと“にらめっこ”が20日間程続いたと思います。その間に探索した事も、盛沢山あります。

大きく分別すると

  1. セラミックストーンの分析情報の収集
  2. セラミックストーンの市場性、発展性の検討

となります。

セラミックストーンの分析情報の収集

頑張ってみましたが、期待したほどの情報は集まりませんでした。最も知りたっかったことは、材料となる石材が何なのかなんです。滑り止め溶剤を開発する為には溶剤に反応させる石の成分の一部の含有量が重要となるからです。収集した情報の中でやるっきゃないと腹をくくりチャレンジするしかありません。

セラミックストーンの市場性、発展性の検討

これについては後で記しますが、間違いなくPタイルに取って代わるでとあろう確信しました。世の為人の為そして、自分の為、覚悟を決めてやりますか。

まずは、頂戴したセラミックストーンを弊社の代理店である石材会社に持ち込み、100ミリ×100ミリに小さく切り刻んでもらいました。160枚もの枚数が手に入りました。

手始めに、従来の磁器タイル、セラミックタイル用の溶剤を通常量塗布しセラミックストーンの表面状態のチェックをします。結果は、磨りガラス状態となり光沢はまったく残りませんでした。

しからばと、次に塗布量を極端に減らしたり、溶剤を2倍、5倍、8倍と希釈して塗布したりして何回もセラミックストーンの表面状態のチェックをしてみました。

この手法は、現在も類似業者の殆んどの皆さんが現場で実施されていることだと思います。溶剤を塗布した後、希釈したレベルに合せて時間を計りながら(塗って5分で拭き取らないと光沢が無くなる)拭き取る必要がある為、作業は、少しづつしか出来ない筈です。

相当体力も使いますね。しかし、それでも“汚れを簡単に拭き取れるようにする”という今回のテーマからは逸脱するものです。若干の光沢は残るし、滑りもそこそこ止まります。が、汚れは、しっかりと残留していきます。

話を元に戻しますと、当時の私は、類似業者の皆さんのレベルにちょっと毛が生えた程度でしたから、実はこの段階で頭打ち状態でした。で、数日の間、光沢のぶっ飛んだセラミックストーンと“にらめっこ”しているうちに・・・・僅かな閃きが・・・・。

一万分の一ミリの目線

何十回と失敗を重ねては”にらめっこ”の繰り返しが続きました。

朝の不思議な現象から、ひらめきが

開発開始から3ヶ月を過ぎた頃の8月のある朝、事務所のテーブルに放置していた失敗した筈のセラミックストーンが僅かに光っていました。その日は、晴天で事務所の窓から強い光線が差し込んでいました。

たまたまその日は、事務所で朝を迎えるハメと相成りまして、7時過ぎの横殴りの強い光線を垣間見る事が出来たんです。前日、全く光沢のなかったタイルが光って見える不思議な光景にしばらく見入っていました。

日が昇るに連れタイルの光沢は無くなっていきました。

何で光っとったんやろか?確かに反射しっとたな?

その時、私の中で僅かな閃きが生まれつつありました。

1時間くらい反射しとったな・・・24時間光らせることができんかなあ・・・。

冴えない頭でうんぬんと呟いては打ち消し、タイルを外に持ち出しては、太陽に向かい、あれこれ何回も透かして見ては光る角度を検証したり、道行く人は、あいつ何しとんねん・・・・そう思ったでしょうね。

確かに一部光って見える角度がありました。残念ながら事務所のへぼい蛍光灯では光りません。困りました。依頼されたテーマは、蛍光灯の下でも光り輝き、そして滑りを止めることですからね。

その日、私はホームセンターへ出向き光沢剤を買ってきました。狙いはもちろんタイルに光沢をつける為です。塗っては乾かしの作業を数回繰り返してはその都度透かして見ましたが、一向に光りません。

ところが、蛍光灯に透かして見ると、それなりに光って見える角度がありました。タイルを真正面から見ると光沢はありません。同じ作業を繰り返しているうちに・・・・閃きました。

錯覚の世界を創造する

何にも考えず、何回もタイルを蛍光灯に傾け、透かして見ていて気が付きました。角度を変えると光ると言う事は、タイルのどこかに反射する部分が残っていることを意味しますよね。それがタイルの何処なのか、どんな成分なのか・・・・。大きなヒントが実はパンフレットにありました。

ガラスもタイルも結合粒子だ!

セラミックストーンのパンフレットに石を微粉末にして2800トンでプレスしうんぬんと記載されています。実はガラスもタイルも結合粒子であることに気が付いたんです。ガラスみたいにピカピカ光っているタイルの表面をいつも目線で見ていたから気が付かなかったんですね。

今思えば、吸水性0.01のタイルです。当然かもね。そこで私は、一万分の一ミリに変身しセラミックストーンの上に立ってみようと考えました。エンヤコラドロン・・・・・そこで見える光景は・・・。

バクテリアより小さくなって見ると・・・

男ばっかりの5人兄弟の4番目に生まれ、元来やんちゃ坊主である私の発想は、よく子供じみていると言われます。少年に返りバクテリアより小さくなって?私は光り輝くセラミックストーンの上にテレポートし飛び降りてみました。

着地してみると、そこは予想とはかけ離れた薄暗い洞窟なんです。周辺を見回すと鈍く光っている箇所がたくさんあります。石英です。セラミックストーンの原材料となる石(花崗岩)の主な成分(75%強)が実はこの石英なんですね。

滑り止めの溶剤は、石英にどう反応させるかがポイント

暫くすると天井から光が差し込んできました。どうやら結合粒子のすき間に着地したみたいです。まずは上に昇ってタイルの表面状態を見たいと思います。

やっとのおもいで頂上にたどり着き立ち上がって見ると、目映いばかりの光景が広がりました。頂上の辺り一面光り輝いています。周辺を見渡すと以外や以外、そこには僅かに凸凹のある台地が広がっています。鏡面仕上げのタイルなので当然のごとく全面フラットになっていると思い込んでいました。

ついでに上空を飛んでみることにしましょう。タイルの上空を何回か旋回していると、其々の台地の光沢の違いに気が付きました。下に降りて何がどう違うのか探索することにします。

石英はさすがに1番光っていますが、アルミナをはじめ石灰やその他の物質も遜色なく光っていました。結晶構造をもつ物質のみが光沢を放つと考えていた私には新たな発見です。

緻密な結合状態の物質は磨くと光る

要は、緻密な結合状態の物質は磨くと光ると言う事です。何やらヒントを得たのでドロンと元に戻ります。

さて、ここから核心に入っていきますが、結晶構造をもつ石英がタイルにどのように分布、配置されているかを想像する事から始めました。石を微粉末にした際にバインバーとして何かを投入したと仮定しても、元々75%強を占めている成分ですから、当然タイル表面にも同様に分布している筈です。

通常の滑り止め溶剤では、タイル表面の石英に過剰反応して光沢はぶっ飛んでしまいます。

  • 滑り止めとはどんなものか?
  • 何故滑りが止まるのか?
  • 滑り止め溶剤の成分がどんなものか?

知らない人は何のことやら判断しにくいと思いますから、ここら辺でチョイと説明しておきましょう。

簡単に言うと、滑るタイルをスタッドレスタイルに変換してしまうんです。基本的な理論は殆んど同じです。従って、タイルにすき間を形成する必要があります。滑り止め溶剤で石英を溶かしてそのすき間を造ります。

石英を溶かす成分はフッ化物で、そのフッ化物は酸性系統の液体に反応しその役割を果たします。従って、石英を溶かす中性の滑り止め溶剤というものは存在しません。

今、世間で中性の滑り止め溶剤でうんぬんと銘打って事業展開している連中もいますけどね。本当にとんでもない事です。中性と言う定義は、学術的にはPH7であり、家庭用品表示法においてはPH6~PH8となります。参考のため。

滑り止めオタクに徹して

ヒントを得て早速、開発戦闘開始です。

とりあえず手許にある無機、有機の酸性の薬品だけでは材料不足なので、8種類の薬品を補填購入しました。次に重要なのが各床材の耐薬品性となります。石材店、タイル業者に出向いては構想の範疇にある床材を片っ端に買い集めました。

事務所の中は、いつもにも増して床材だらけの状態となり異様な空間を呈しています。セラミックストーン専用滑り止め溶剤を開発するのに、何故にこれだけ多種の床材が必要なのか?現在、滑り止め業に携わっている皆さんは不思議に思われるかもしれません。

その理由は、上記で簡単に記述しましたが、床材をスタッドレスにするためには、床材の結合粒子の一部、石英(以降シリカとします)を溶解させる必要があります。酸性成分によりパワーを得たフッ化物がその役割を担う訳ですが、実はここに最も大きな問題があります。

床材の成分には、石灰をはじめ酸性成分に過剰に反応する物質も多く含まれているからなんです。床材をたくさん集めた理由はここにあります。タイルや自然石が、それぞれの無機系酸、有機系酸の反応性の強弱によってどう変化して行くのか、また、そこにフッ化物を混入した時に、それぞれの床材がどう変化して行くのか、見極める必要がありました。

毎晩、テスト溶剤の開発を繰り返す

9年前ですから、その当時の私の会社は、私と私を補佐してくれる1名の社員しか居りませんでしたので、そりゃもう大変でした(今も大変ですけど・・・・)。日中は食っていくため、滑り止めを施したデモ用タイルと石材の入った重たいカバンをぶら下げて営業で走り回り、何処に伺っても“何ですかソレ???”と言われ、1日何回も同じ事を説明し、クタクタの毎日でした。

従って研究開発は基本的に夜です。毎回テスト的につくる溶剤は1,000ミリリットルとし、層別した床材に塗布し、反応性と効果、床材の変化のチェックを繰り返しました。毎晩、この繰り返し。今風に言うオタクになりきりました。覚悟を決めると出来るもんです。

その間に不適合で溜まったテスト溶剤は、以前に滑り止め施工でお世話になった某ホテルから浴場の滑り止め保全のために有難く使用させていただきます、と喜んで引き取って貰い、テスト済の不要な床材は、産廃とし代理店である石材会社に引き取って貰いながら数ヶ月間没頭しました。

この作業は言うならば、リニアモータカーをより浮かす為に必要不可欠である超伝導体を日々研究している皆さんと同じことをやったんだ?と自負していますが、能力もスケールも違う世界ですね。失礼しました。

実は、ある発見を機に私のイメージしたレベルの溶剤が出来上がりました。とりあえず、出来上がった溶剤をセラミックストーンに塗布し、滑り止めの効果を確認。今までの滑りの止まり方と全く違うピタッと止まる感覚、それでも光り輝くセラミックストーンに見とれながらホッと一息入れました。

滑り止めの世界が変わる?タイルメーカーでの実演

翌日、嬉しさを堪えながら、依頼者であるタイルメーカーの社長を尋ねました。社長室で改めて400ミリ角のセラミックストーンに出来たての滑り止め溶剤を塗布し、その評価を確認する為です。

社長は、信じられない顔つきで私の作業を見つめていました。

数分後、滑り止めを施したデモタイルを手に取り、真剣に何度もタイルを回転させながら光沢、反射を確認する社長の顔が笑顔に変わっていきます。デモタイルに水滴を落とし足を滑らせては、オーッ、オーッと歓声を上げ、

滑らん、本当に滑らん!

と繰り返し、そりゃもーメチャクチャに喜んでくれました。

ASTMでの摩擦係数40はクリアできたのか?

さて、これからが問題です。大きな壁が待ち受けています。

ASTMでの摩擦係数40をクリアせねばなりません。滑り測定値については、テーマが大きすぎるため、後日、別途記ししたいと思ってはいます。しかしながら、何等かの目安が欲しい為にある計測器の係数値を安易に安全基準値とし採用しているタイルメーカー、並びに鉄道関係等と増加しているのは残念な事です。

安易な考えで採用すると必ずトラブルに発展します。さて、今回はASTMです。とりあえず社長室で3枚のデモタイルを仕上げ、測定のためタイル協会へ送ってもらう事にしました。その時の社長の一言。

もし、これがASTMで40以上をクリアしたら弊社の販売戦略は大きく転換する。
将来、Pタイルにこのセラミックが取って代わる時代が来るかもしれない。
セーフティさん、弊社のカタログに、この滑り止め工法を掲載しますよ。

大変に有難い申し出を受け、この時は、若干の不安は正直ありましたが、久しぶりの充実感に浸りました。それから約2週間が経った頃、タイル協会から待ちに待った連絡がきました。

3枚送ったセラミックストーンの其々の計測値は、39、41、42。確信はありましたが嬉しい結果となりました。

暫くして、タイル協会の所長から電話があり、

驚きました。何ですかあれ?
ASTMの測定値より、はるかに摩擦感があるんですが、どんな理論なんですか?

私は返事に困り、こう答えました。

私もまだ解りません。これから理論付けします。

9年経って2008年、今まさにPタイルがセラミックストーンに移行しつつあります。

この記事を書いた人

内藤 憲道

内藤 憲道

多種多様の床材や状態に合わせて滑り止め溶剤を調剤し、美観をまったく損なわずに滑り止め効果をつくる防滑のエキスパート。溶剤系滑り止めでは、業界の第一人者。全国で活躍する防滑業者の多くは、内藤の理論がベースになっているとかいないとか。メンテナンス業界では防滑に限らず床材のドクター(研究者)として知られ、大手ゼネコン、タイルメーカーはもちろん、同業者から現場相談を受けるなど、(一部では)圧倒的な信頼を得ている。

  1. FPほりお より:

    久しぶりです。堀尾です。
    貴社のホームページを見てブログを始めたと知り、拝見しました。
    内容が濃いブログですね。
    恥ずかしながら私もブログを書いていますが、忙しくなると書き込みを忘れてしまいます。
    貴兄のますますのご活躍をお祈りしています。

    • 内藤 憲道 内藤 憲道 より:

      遅くなりました。コメント有難う。ブログについて全くのド素人で、今日やりかたを教わった次第です。自分の経験を基に書くだけなんだけれど、文章を作るのは、難しいね。昔、稟議書を書くのに苦労していた頃と同じ感じかな?ハッハハハ

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